(ネタバレあり。注意)
地味だが、まず推理ものとして凝っているし、
さらに未決囚遠峰小夜子 (とおみねさよこ) のこのエピソードに収まりきらない人物像の深め方もいい。
2年前のアポ電強盗殺人事件と、同じ日ほぼ同じ時刻に起きた妊婦の階段転落死事件。
二つの事件にいったいどういうつながりがあるのか?
右京と亘にそのつながりを気づかせるきっかけになるのが、
魔性の女、遠峰小夜子との面会。
アポ電強盗殺人の容疑者は妊婦を転落死させたと自白しているのだが、
遠峰小夜子は「2年前のあの日、わたしはアポ電強盗殺人事件の現場近くで容疑者を目撃した。
容疑者が妊婦転落死の犯人であるはずがない」
と右京と亘に語る。
容疑者は妊婦転落死を自供することで
アポ電強盗殺人事件とその一員を殺害した容疑を回避しようとした。
そういうことなのですが。
ではなぜ遠峰小夜子は右京たちに目撃証言をしたのか?
そこから事件は深まりを見せ始める。
一見すると無関係に思える、遠峰小夜子と妊婦転落死事件。
実はその両方に関わりを持っているのが雑誌記者白石佳奈子。
白石佳奈子は、小峰小夜子の詐欺事件の被害者でありながら、
遠峰の「魔性」に惹きつけられていった。
遠峰は自分の崇拝者となった白石佳奈子を嘲弄するために、
右京たちに目撃情報を告げたのです。
しかし、遠峰が妊婦転落死事件に関心を持ったのは、
白石佳奈子だけが理由ではない。
右京が喝破したように、
遠峰には「階段からの転落」への異様な関心がある。
遠峰の母親は階段から転落死したのだ。
遠峰が「魔性の女」となった秘密を今回のエピソードは示唆しています。
その意味で、「遠峰小夜子の謎」という大きなテーマにつながっている。
乞うご期待、ということでしょう。
「魔性の女」と言えなくもない小手鞠さんの魔性は、
遠峰小夜子のそれには及ばない。
(その程度の女狐に甲斐峰秋がやに下がっているのも今シーズンの不満なところ。
甲斐峰秋だらしなさすぎ。お前は男狐じゃなかったのかい?と思います)
正確ではありませんが、
遠峰小夜子が、
《自分に自信のない人間は簡単に人を崇拝する。そういう人間をわたしは軽蔑するんだ》
というようなことを右京に言います。
遠峰小夜子は好きではありませんが、この台詞はとてもいい。
その種の人間の弱さを知悉し、そこにつけ込むのが遠峰小夜子の「魔性」の秘密です。
つけ込まれた雑誌記者白石佳奈子は、いつも神経質そうに指をかきむしっている。
台詞による説明はいっさいありませんが、
その仕草をさりげなく観察している右京は、そこに白石佳奈子の危うさを洞察している。
いい演出です。
白石の弱さを見抜き、嘲弄する遠峰小夜子の魔性は、
しかし少女時代の経験のトラウマに由来するもの。
今回のエピソードはそのことを暗示しています。
それを今後どう右京が解き明かすのか。
解き明かされた遠峰小夜子はどう変わるのか、あるいは変わらないのか。
そういう伏線が今回きちんと示されたと思います。
それから。
このシーズンでわたしが危惧している出雲麗音 (いずもれおん) さん。
今日はなかなか味を出していました。
が、少し純情すぎる気もする。
純情な出雲麗音と、
かつて犯人に銃撃の傷跡をさらけ出して自分の内なる闇を爆発させた出雲麗音。
その裂け目をこれからどう描いていくのか、
わたしはそこに興味があります。
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