インチキ宗教家平井と色っぽい姉さんが組んだ美人局(つつもたせ)。
その罠にはまったのが連続殺人犯。
推理ドラマとしてその設定が面白いと思う。
でもいちばん面白かったのは、平井とお姉さんの関係だった。
平井は、詐欺で刑務所に入っていたときに聖書を読んで「これは使える」とひらめく。
えせキリスト教を利用してお悩み相談所みたいなものを開き、相談に乗るお姉さんが客を誘惑して美人局をやってる。
二人とも「悪い奴」です。
なんだけれど。
山形出身の平井は、ひったくりに遭ったおばさんが山形弁で「捕まえてくれ!」と叫んだのに思わず反応して、自転車で逃げるひったくり犯を突き倒す。
悪いやつを捕まえるのは警察の仕事で俺の仕事じゃない。
直前にそう言っていたにもかかわらず、です。
悪人にしてはうかつ。
「美人局みたいな面倒なことはやめて振り込め詐欺みたいなことをやろうよ」
というお姉さんに、
「見ず知らずの年寄りからだまし取るなんてのは単純だ。人間関係の手間暇をかけてだまし取らなくちゃいけない」
と「詐欺の美学」みたいなものを語り、
訪ねてきた右京たちが刑事ではないか、とお姉さんが言えば、
「いや、俺は目を見たら刑事を見分けられる」
と自信たっぷりに否定する(もちろん大間違いなんですが)。
要するに、中途半端に悪人気取りで実はたいしたことない。
でもそこに人間としての魅力がある。
らしい。
「らしい」と書いたのは、そこが『相棒』のいいところなんだけれど、
平井の「人間の魅力」を直接的に描かない。人情ドラマから距離を取っている。
しかし直接的に描かないのだけれど、視聴者の想像力をくすぐるように間接的に描く。
それが色っぽい姉さんとの関係です。
どうやら二人は長年の関係のようです。
そして同居している。
にもかかわらず二人に男女の関係はなさそう。
金が手に入ると姉さんは遊び回る。
お互いに相手と組むことが利益になるのは事実です。
欲深そうなお姉さんは、でもなんだか平井の「おっちゃん」を男としてではなく、人間として好きな気がする。
というか、二人のタッグを解散する気がまるでないような気配がする。
その二人の関係がとても魅力的だとわたしは感じました。
お姉さんにとって平井と組むことは欲得ずくだけではない。
何気ないけれどとても大事な邪気のなさと緩さを平井は持っている。
「愛している」とか「信頼している」とかいう大げさな言葉ではなくって、
「なんだか居心地がいい」。
お姉さんはそう感じているからずっと平井と一緒にいるんじゃないだろうか。
なんで居心地がいいかというと。
平井はお姉さんに対して、ごく自然に、無意識に「清潔な態度」なんですね。
お姉さんにネックレスをかけるという、ふつうだったら結構危うい場面でさえ。
それがさりげなく描かれている。(し、風間杜夫の演技もいい)
そしてけっこう「悪い女」であるはずのお姉さんの方も、そういう平井の良さを、こちらもごく自然に、無意識に感知する能力を持っている。
こういう男女の関係もあっていいのかもしれない。
そう思ってしまいました。
さらに。
右京もそういう平井を好きな気がする。
右京は平井を糾弾する姿勢をまったく見せない。
この詐欺師カップルの関係の魅力はなかなかのものだと思いました。
推理ドラマとしては瑕(きず)がある。
犯人が被害者にプレゼントしたネックレス。
犯人はこのネックレスをお姉さんに巻き上げられ、
それを奪いかえそうと二度の侵入をして結局逮捕されちゃう。
被害者の指紋と自分の指紋がついたネックレスを取り返そうとしたのだ、
と説明されますが。
捜査の中でネックレスはまったく問題になっていない。
どころかその存在すら想定されていない。
「不在のネックレス」をどうして家宅侵入の危険をおかしてまで犯人が取りもどそうとするのか?
そこが推理ドラマとしての瑕(きず)。
そういう瑕はあるけれど満足の一篇でした。