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2021年3月19日金曜日

海老と春キャベツのジェノヴェーゼソース・パスタ


春キャベツがおいしい季節です。
豊かな香りの海老パスタはいかがでしょうか。

ジェノヴェーゼソースは、バジリコに松の実などを加えた香りの強いソースですが、
これに「東のパクチー」「西のディル」と呼ばれる (?) くらい横綱級の香りのディルを合わせます。

ディルは不思議なハーブで、それ自体の香りが個性的なのですが、
他のハーブと組み合わせると相乗効果で香りがいっそう引き立ちます。

また、ジェノヴェーゼソースにはアンチョビを加えるのが正式だと思うのですが、
市販の瓶詰めには入っていません
 (入ってるのもあるかもしれませんがわたしは見たことがない) 。
味にコクを出すためにアンチョビを加えます。

生クリームを加えるのは味をまろやかにするため。少量にとどめます(牛乳や豆乳でもいい)多いと「ジェノヴェーゼクリームソース」になってしまって春キャベツには重すぎます。

パスタが茹で上がる直前にソースが完成しているのがベストです。


海老とキャベツのジェノヴェーゼソース・パスタの作り方


《材料》(3人分)

パスタ                270g
むき海老            180gくらい
春キャベツ       たくさん(計ったことない。1/3個くらい? 熱が入るとカサが減ります)
マッシュルーム   1/2パック
ディル               適宜(好みによりますが、わたしは小さいパックだと2/3以上、大きなパック
                                だと半分近く使います)
アンチョビ         3枚
ニンニク            1片

ジェノヴェーゼソース          大さじ6~7
白ワイン (または純米酒)   大さじ2
生クリーム         大さじ1
黒胡椒               適宜
EVオリーブオイル     適宜
                     適量



【作る

1) しっかり塩を入れたたっぷりの湯を沸かし始める。

2) むき海老は背わたがあれば竹串などでとる。塩少々と片栗粉をふってもみ洗いしたあと、ザルに受けて洗い流し、ペータータオルなどで水気をとる。大きめの海老なら二つのそぎ切りに。

今回のキャベツの量はこのくらい。
手前はマッシュルームとキャベツの固い部分。

2) ディルは洗って水気をとったら葉の部分だけを大雑把に切る。マッシュルームは薄切りに。キャベツはざく切り。固い部分は捨てずにそぎ切りにして別にしておく。
ニンニクは包丁の腹で体重をかけて押しつぶし、皮と根本の部分をとってみじん切りにする。アンチョビもみじん切りです。

3) パスタを茹で始める。指定時間より1分ちょっと短めにゆでます。フライパンにオリーブオイルを入れ、中火でニンニクとアンチョビを炒める。アンチョビを炒めるのは臭みを飛ばすためです。

4) マッシュルームとキャベツの固い部分を加えて炒める。(隣の鍋のパスタがくっつかないように菜箸で何度かかき混ぜる)

5) ジェノヴェーゼソースとパスタのゆで汁をお玉に1杯強加える。そこに海老を入れたら白ワインをふり、強火でアルコール分を飛ばす。

6) 生クリームを加え混ぜ、すばやく味見をして足りなければ塩を足す。「ちょっとしょっぱいかな」くらいで丁度いい。

すぐにカサが減るので大丈夫
7) キャベツをドサっと入れて混ぜる。たぶん、パスタのゆで上がりの1分30秒くらい前だと思います。キャベツを一気にやわらかくするために強火。パスタのゆで汁が足りないようなら足す。


8) パスタが茹で上がったらしっかり湯切りをしてソースに加え、強火のまましっかりあおる(あおるのができない人はトングで激しくかき混ぜる)。黒胡椒をペッパーミルで挽く(なくても可)。

【完成】

皿に盛り、ディルをのせたら完成です。




2021年3月17日水曜日

「暗殺者への招待」——『相棒』Season19

(ネタバレあり。注意)

白バイ警官・出雲禮音 (いずもれおん) が銃撃されたSeason19「プレゼンス」の後日談。
Season19を締めくくる2週連続の長尺です。

「プレゼンス」で銃撃事件の実行犯として逮捕された朱音静 (あかねしずか) は、
「IT長者の加西周明 (かさいしゅうめい) から6億渡すと言われ、拳銃も渡されてやった」
と供述した。

ヴァーチャル国家「ネオジパング」を動かす加西は、しかし、右京と亘の捜査にもかかわらず、
無傷のままだ。

今回のエピソードでは、取り調べを受けている静が、
「加西の指示だった」という前の供述がでたらめだったと弁護士・中郷都々子 (なかさとつづこ) に伝える。

いったいどういうことなのか?
右京と亘が動き出した矢先に、
前のエピソード「プレゼンス」で加西に踊らされてビルから転落死した幸也の母・蒔子 (まきこ) があらわれる。
蒔子は幸也の死後、幸也の恋人だった静をなにくれとなく世話しているらしい。

静の証言撤回の裏には金が動いていたようだ。
拘置所にいる静に代わって金を受け取ったのが蒔子だ。
右京はそう推理する。

折も折、
蒔子が右京に「とんでもないことをしてしまった」と泣きついてくる。
なんと蒔子は闇サイトで加西殺害を依頼してしまったのだと言う。

ここまでが先週。

わたしの予測は。
静が、加西およびその後ろ盾から金を受け取って証言を翻したものの、
実は加西の裏をかこうとしている。
そういうものでした。


で、いよいよ今回。
わたしの予測は当たっていて外れてました。
静が裏をかこうとしたのはほんとですが、
裏をかかせようとした奴がいる。
そういうとても複雑なストーリー。


とても複雑なストーリーだし、
策略を画策した (=静に裏をかかせようとした) 
内閣情報調査室の庸子 (まさきようこ) は逮捕されたものの、
柾を動かした内閣官房長官・鶴田は無傷のまま。

(ここまで書いてきて『相棒』の登場人物の名前、国家公安委員長の鑓鞍 (やりくら) を含め、凝り過ぎだよ、と思います。コメントを書くにもいちいち公式サイトで漢字を確かめなくてはならん。もうちょっとふつうの名前にしてくれえ)


なのだが。
けっこうカタルシスがあった。

カタルシスのひとつめは。
鼻持ちならない弁護士・中郷都々子が煮え湯を飲まされたこと。

もっと大きなカタルシスは。
証拠は握れなかったものの、
鶴田官房長官への右京と亘の宣戦布告。

今回、一度目の鶴田との会見で、
右京は歯に衣着せず自分の推理を披露する。
「あんたが黒幕でしょう」と。
それを亘がひきとって、
「申し訳ありません。この人、こういう人なんで」
と頭を下げる。

だが、二度目の会見で、
右京が「あなたが黒幕でしょう」
と同じようなことを言った後、
亘は前回と同じように鶴田に頭を下げて言う。
「申し訳ありません。われわれ、喧嘩を売りに来てるんで」
亘、かっこいいぞ。

このところ無難な態度をとっていた出雲麗音がふたたび危うさを炸裂させていた。
今後、禮音をどう描くんだろう。
描きようによってはものすごくおもしろくなりそう。

静もこれで終わりそうもないし、
鶴田への宣戦布告後の展開やいかに?
Season 20への布石もあって、まあ満足かな。



ボロネーゼソースのパスタと旨安赤ワイン


ボロネーゼ (ボローニャ風) ソースはいわゆるミートソースです。

定番のパスタだからネットにもたくさん記事が出ているので、
屋上屋を架さないようにざっと見て、
落合努先生その他の本も確認しました。

その結果、わたしなりの工夫があるものとして投稿してもいいかな、と思いました。


外してはいけないポイントは

(1) 飲んでおいしい赤ワインを加えてしっかり煮込むこと。
(2) 最後にかけるチーズは市販の「粉チーズ (パルメザンチーズ)」ではなく、ほんとのパルミジャーノ・レッジャーノを削ること。

の二つです。


塩味系ソースやクリームソースは、
パスタが茹で上がる直前にソースを完成させるのがベストですが、
ボロネーゼソースは煮込みます(落合努の店は数時間煮込むそうです)。
数時間もかけるエネルギーはないので、パスタを茹で始めるくらいまでにソースを完成させて、パスタを茹でる時間だけ煮込んでいます。
(もちろんもっと煮込んだ方がよろしいんでしょう。ご自由に)

「飲んでおいしい赤ワイン」はもちろんピンからキリまであります。
要は料理用の赤ワインじゃだめだということ。

お金のある方はいくらでもぜいたくなワインをどうぞ。
わたしには無縁な話なので、
最後にわたしなりの飲んでおいしい旨安赤ワインをいくつか紹介します。



ボロネーゼソース (ミートソース) のパスタの作り方


《材料》(3人分)

パスタ                270g (1.9mmくらいの太めの麺がいい)
合い挽き肉         180gくらい (好みで増やしてください)
セロリ             1/3本
タマネギ            1/2 個 
ニンジン        1/2本
マッシュルーム   1/2パック
トマト水煮缶      1缶
乾燥トマト          5~6枚
パセリ                 2~3本
ニンニク             1片

赤ワイン    大さじ3
オレガノ            小さじ1/2
昆布茶               小さじ1/3
黒胡椒               適宜
EVオリーブオイル     適宜
                     適量

【作る

1) パルミジャーノを削る。セロリ、タマネギ、パセリはみじん切り。マッシュルームは薄切り。ニンジンはすりおろす。このすりおろしニンジンがトマトの酸味を和らげ、味の奥行きを出します。ニンニクは包丁の腹で体重をかけて押しつぶし、皮と根本をとってみじん切り。

2) フライパンに油を入れずに合い挽き肉を入れ、中火~中弱火でパラパラになるまで炒める。
肉から脂分がジミジミしみ出してくるので焦げないはず。牛挽肉が正式ですが、わたしは合い挽き肉が好みです。



3) 肉がパラパラになったら、フライパンにちょっと隙間を空けて、そこにオリーブオイルとニンニクを入れる。ニンニクの香りがオリーブオイルに移ったら全体を混ぜて、塩・胡椒。できれば良い塩を「塩味はここで決めるぜ」という気持ちでしっかりふる。セロリ・タマネギ・マッシュルームを入れ、オレガノを指ですりつぶすようにしながらふる。タマネギが半透明になるまで炒める。

4) 赤ワインを加え、強火でかき混ぜてアルコール分を飛ばす。


5) トマト水煮缶を加え、この辺からパスタを茹でる湯を沸かし始める。フライパンに乾燥トマトを調理ばさみで細切りにして加え、すりおろしたニンジンも加える。中弱火にして味見。足りなければ塩を加える。昆布茶を加える (邪道なんだけど、でもひと味違うんです。多すぎたらダメ)。

6) パスタを茹でる。塩味系ソースやクリームソースは指定時間より1分ちょっと短めに茹でるのですが、ボロネーゼソースは麺にソースが食い込みにくいので30秒だけ短めに茹でます。もちろん、その間ソースは弱火で煮込み続ける。

7) パスタが茹で上がったらしっかり湯切りをしてソースに投入。強火にして好みでオリーブオイルを足し回しながらあおる (またはトングで混ぜる)。パセリを散らしてひとあおりしたら皿に盛る。


【完成】

パルミジャーノをのせたら完成です。あなたが酒飲みなら、ソースに使った赤ワインを合わせて食する。わたしはランチでも飲みます (地中海ではそれがふつうだしね)。





旨安赤ワイン

いくらだったら「安い」のかは人それぞれ。
5000円で安いという人もいると思う (そういう人はあっちへ行け。シッシッ!)。
わたしは上限1000円前後です。
(わたしも「シッシッ!」と言われるかもしれません。「チコちゃんに叱られる」に出ていた大学のある先生は「いつもは400円くらいのワインだけど、今夜はテレビに出たお祝いに800円のワインを飲もうと思います」という立派な発言をされていたように記憶しています)

このクラスの「旨安赤」、「悪くはないけどなんてことない」のがけっこう多い。
よく見かけるスペインの「エヴォディア」とか (これを3000円くらいで出してる店もあるけどね)。

で、そんな中、ナンバーワンはイタリア・プーリア州の「グランデ・アモーレ」
「カルディー」にときどき大量に入荷するが、いつもあるわけじゃない。
いかにもプーリア州の赤らしい、果実味たっぷりのフルボディー。
見つけたら持てるだけ買います。
これを造っているワイナリー・ピロヴァノには1500円くらいのもあって (「サレント・ロッソ・パッシート Salento Rosso Passito」) 文句なしにおいしいんだけれど旨安じゃないよね (わたしには)。


で。
写真の「フロンテーラ・ナイトハーヴェスト」「バルカトリーナ」
「フロンテーラ」はチリのコンチャ・イ・トロ。
いろんなリーズナブルな安ワインを出してるワイナリーですがこれはコンチャ・イ・トロの中でも別格です。
800円台前半。
バランス良く奥行きがある。
コンチャ・イ・トロを置いてるスーパーはけっこうあるんですが「フロンテーラ・ナイトハーヴェスト」は、今のところとあるコンビニでしか見つかりません。

キジのエチケットが印象的な「バルカトリーナ」はポルトガル。
ポルトガルのワインは味の割に割高なのですが、
こいつはこの値段からは信じられないほんとのフルボディーです。
けど、ちょっと角があるかな。わたしは好きですが赤を飲みつけてない方は苦手かも。
同じワイナリー (カーサ・サントス・リマ) でもっと安い「バリカス・ティント Barricas Tinto」は角がなく柔らかで、しかし、しっかりしたボディーがあります。
 (ただし、エチケットはこれ以上ないくらい簡素でそっけないので、恋人に勧めたりしないよーに)。

こういう赤を使うといつものミートソースがレストランみたいな味になる (と思う)。



2021年3月12日金曜日

ギリシアのぼったくりクラブの話

若い頃の思い出です。
似たような体験をした人の話を複数聞いたのでよくある手口のようです。


ギリシアを一人旅していたときのこと。
アテネにプラカというにぎやかな場所があります。
アクロポリスの麓、
土産物屋やタベルナ (食堂) がひしめいて観光客でごった返している楽しいところです。

おいしいタベルナで昼食をとっていると、隣のテーブルの男が話しかけてきた。

「日本人か」
「そうだ」
「おお、わたしはキプロス人で横浜と神戸にいったことがある。日本は大好きだ。
いっしょに食事していいか?」
「いいよ」

わたしは彼のためにワインを1本とって二人で楽しく食事をしました。

「今日は楽しい食事の時間だった。ここはわたしが払う」とわたしが言うと、
「いやいや割り勘だ。わたしだって楽しかったから」と彼。
「ではワインはわたしに出させてくれ」とわたし。

勘定を済ませると彼が、
「今日はほんとうに楽しかった。だから今度はわたしにビールを一杯だけおごらせてくれ。
夕方もう一度会わないか?」
そういうのでわたしは会うことにしました。

夜に待ち合わせの場所に行くと、彼は
「わたしの知ってる店にいこう。そこでビールを一杯だけ飲もうじゃないか」
と先に立って歩き始めます。

だんだん暗い通りに入っていきます。
が、彼は陽気に馬鹿話を続けています。

あとから振り返るとすごい技術だな、と思うのですが。
暗い通りにミニスカートの水商売らしい色っぽい女性が立っていて、
そこを通り過ぎたところで、
「おい、わかるか? 今の女、おかまだぜ」。
あっはっは、とわたしが笑ったところで
「ここだ」と地下に入る階段を降りはじめた。
その絶妙なタイミング。

わたしはちょっといやな予感がしました。
階段入り口にしどけない姿の女性たちの写真が並べてあったから。
でも「ここでくだくだ言うのもめんどくさいのでまっ、いいか」と彼についていきました。

降りた先はクラブ。
彼と席についた途端、10名ほどの韓国人の美しい女性たちが座ってきて
ウェイターにドリンクを注文し始めます。

「これはやばい」
と思って、
「待て待て。わたしはこのキプロス人の友人とビールを一杯飲みに来ただけだ。君たちと飲むつもりはない」
と言ったのですが、女性たちは聞く耳を持たずに
「まー、楽しく飲みましょうよ」
「英語お上手ねえ」
などとドリンクを飲み始めました。

「わたしはビール一杯以上のお金を払うつもりはない。この娘たちのドリンクは話が違う」
キプロス人にそう言いましたが、彼は知らんぷり。

するとウェイターがやってきて、
「おい、どういうつもりだ。この娘たちのドリンクを払え」。
「ふざけるな。この娘たちが勝手に注文したのでわたしはビールしか飲んでいない。
払うつもりはない」

ウェイターは即座に金を払えと毒づき、わたしと押し問答に。
その頃で10数万円の金額を請求されました。

「わたしは貧乏な学生だ。そんな金は持ってないし、クレジットカードも持ってない」
わたしがそう言うとウェイターは、
「ファックユー! それならちょっと裏に来い」。

わたしはウェイターと押し問答しているあいだに必死に考えました。
周りを観察すると、他の席では金持らしい男性が女性相手に飲んでいる。
わたしのようなぼったくりに引っかかった客だけではなくて、
金のかかる遊びをしている客がほとんどだ。
そして裏に連れ込まれたら用心棒がいるに決まってる。
わたしは少林寺拳法をやっていたので、いざとなったら相打ちぐらいやってやろうと腹をくくりましたが、袋だたきにされる可能性は高い。
絶対に裏に連れ込まれてはならない。

そこで徹底的にテーブルに腰を据えることにしました。

たいしたことない英語を振り絞って大声でウェイターを罵り続けました。
黙ったら終わりだ、と必死でした。

「このキプロス人のくそ野郎はお前たちに雇われてんだろう。旅行者にこんなぼったくりをしやがって。
わたしは古代ギリシア文学を研究している学生だ。
古代ギリシア文化に心から敬意を抱いている。すばらしい文化だ。
お前たちギリシア人はホメロスの時代から、外国人や旅人を大切に扱う伝統を持っているはずじゃないのか。お前はギリシア人のくせに『フィロゼニア』(よそ者を大切にする心)ということばを知らないのか。恥を知れ」

全力を挙げて大演説です。
演説しながら、他の席の客たちの困った様子がわかりました。
変な東洋人に騒がれて楽しい酒が台無しだ、という雰囲気。
わたしは「いけそうだ」と思いました。

大声で演説し続けるわたしにウェイターは困ったのでしょう。
「わかった。もうわかったからビール一杯分だけ金を置いて出てってくれ」。

わたしはビール一杯分の勘定をテーブルに置き、
黙って出ていくのもくやしかったので、キプロス人に、
「キプロス人が言う『友情』がどういうものかよーくわかった。おれは二度とキプロス人を信用しないからな」
と言って店を出ました。


あとからいろいろ考えました。

危機に動じたらだめだった。大変なことになったとは思ったものの、
なぜかわたしは動転せず、周囲を観察して必死に頭を巡らせた。
自分で気づかなかったそういう一面がはじめてわかりました。

ギリシアに韓国人の女性が稼ぎに来てるんだなーー、とも。

そして
「おれは二度とキプロス人を信用しないからな」というわたしの捨て台詞への彼の意外な反応。
わたしは彼がせせら笑うだろうと思ってました。
でも彼はうつむいて決まり悪そうにした。
生活のためにしょうがなくぼったくりの手先をやってたんだな、とちょっと同情します。


後日談。
この体験を大学の後輩にしたら、
「わたしの友人もそっくり同じ目に遭ってますよ」

だがその友人はある意味でわたしよりすごい。

彼は「どうせぼったくられるんだからもう腹をくくるしかない」と、
店の韓国人 (かどうかは定かではありませんが) 女性たちの胸や尻を触りまくり、
そこまでの店じゃないから女性たちはキャーキャー逃げ回る。
店は大騒ぎになって
「お前、頼むから出てってくれ」
と言われて、さすがにビール一杯分ではなく相応だと思ったお金を自主的に置いて無事に出てきたそうです。

危機に際していろいろな対処の仕方があるもんだなと思います。


2021年3月3日水曜日

「選ばれし者」——『相棒』Season19

(ネタバレあり。注意)

法が裁けない悪人に旧式拳銃デュークを手にした者たちが「選ばれし者」として鉄槌を下すという、ベストセラー小説『魔銃録』。
その模倣犯と思われる男が悪徳代議士をデュークで射撃した。
押収されたデュークは科学警察研究所 (科警研) に保管されている。

ところが。
今度は『魔銃録』の著者・笠松剛史が射殺され、
その銃弾の線状痕が押収されたデュークと同じもの。
そう鑑定したのは科警研の研究員・黒岩雄一。

押収されたデュークがなぜ、どのように殺人事件に使用されたのか?

その謎を解明すべく右京と亘が動き出す。

そういうストーリーでした。

ストーリーの枠組みはおもしろい。
わたしは惹きつけられました。
謎解きもそれほど破綻はなかったと思う。



だけれども。

推理ドラマとして疑問点が三つあります。

一つ目は。
犯人は科警研の研究員・久保塚雅美なんですが、
(「ネタバレあり。注意」と書きましたが、これだけ登場人物が少ないと早い段階で彼女が犯人だということはわかる)
押収されたデュークの銃身だけを持ち出して笠松を射殺した。

でもですね。
科警研の入退場チェックは非常に厳しいものだと強調されている。
それだけきびしい荷物チェックは目視だけなの?
雅美は銃身を持ち出し、持ち帰っている。
金属探知機はないのかい。

二つ目は。
科警研の研究員黒岩雄一は銃鑑定のプロ中のプロです。
その彼が、押収された銃が笠松殺害に使用されたと気づくのは、
右京と亘の「ガンオイルの匂いがした」という指摘を聞いたときです。
わたしは銃についてたいした知識はありませんが、
押収後に弾丸が発射されたことはガンオイルなんかじゃなくても専門家なら一目瞭然にわかるんじゃないでしょうか?
使用されたのが銃身だけだったとしてもです。


一つ目と二つ目は技術的な問題点なんですが、
三つ目はドラマとして最大の問題です。

犯人久保塚雅美の動機と人物造形。

久保塚は、銃を手にしたとき人はどういう行動をとるのか、という研究をしていて、
その (当然極秘の) アンケート調査を作家笠松に渡した。
笠松はその資料をもとに『魔銃録』を書き、
模倣犯が出てきたわけですが。

模倣犯の登場にびびった笠松は、警察にこれまでの経緯を告げるべきだと久保塚に言い、
久保塚は「研究を途中でやめるわけにはいかないのよ!」
と言って笠松を射殺した。

だけれども。
久保塚の研究の動機は、アメリカ留学中に銃を持った少年に脅された体験。
そこから銃を持った人間がどう行動するかに関心をもったわけです。

その研究の調査から、久保塚は代議士銃撃犯を選び、彼にデュークを渡した。
未遂に終わった第2の銃撃犯もそうです。

二人の犯人は『魔銃録』に影響されている。
「選ばれし者」として悪人に鉄槌を下そうとした。

これ、久保塚の研究とかけ離れています。
久保塚は銃を手にした「ふつうの」人間がどう行動するかを研究しているんじゃなかったのか?
アメリカで久保塚に銃を突きつけたのは金目当ての悪ガキだった。
「選ばれし者」とはほど遠い。
「選ばれし者」の意識をもった二人の犯人を選抜した時点で、
久保塚は研究者として破綻してます。

要するに、
久保塚の研究動機と犯罪動機の関係が曖昧で、
ということは、久保塚の人物造形が曖昧だということです。
これ、かなり致命的だなと思います。

補足すれば、
銃撃された体験を持つ出雲麗音をせっかく出して犯人を説得させたのに、
銃撃についての禮音の立場と久保塚の立場をどうぶつけようとしているか意図不明でした。

ストーリーの設定と枠組みはよし。
でも突き詰めがない。