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2012年5月27日日曜日

アフリカの星

「プレーリー・サンライズ」が咲きました。
アメリカのグリフィス・バック博士作出のバラは「バック・ローズ」という通り名でモダン・シュラブの1グループになっているようです。


アイオワ州の過酷な環境下で作出されたバック・ローズは、暑さ・寒さをものともせず病気にも強い。そして美しい。


バック・ローズの中では、複雑に色合いが変化する複色花「ディスタント・ドラムズ」がよく知られてますが「プレーリー・サンライズ」もよい。


農薬なしでガンガン咲きます。




バック博士にはおもしろくて感動的なエピソードがいくつかあります。興味がある方は「アンティーク・ローズ・ガーデン」http://antiquerosegarden.dreamblog.jp/ で「バック」を検索してみてください。


「ラリー・ダニエルズ」、日陰にもめげず房咲きになりました。
ファウンド・ローズはやはり強い。
透明感のあるソフト・ピンク。薄い花弁が魅力的です。






前回の投稿「パイエーケス人の園を離れて」で、「ヤング・リシダス」と「ツーヤンフェーウー(紫燕飛舞)」が似ていると書きましたが、


やはり違いますね。
「ヤング・リシダス」のメタリックな花色。浅緑の葉とのコントラストがいい。
色が違う。
「ヤング・リシダス」は内側から光るようなメタリックなローズ色。
写真でそれをとらえるのはとても難しい。
「ツーヤンフェーウー」はより落ちついたソリッドカラー。


「ヤング・リシダス」の開花直後
「ツーヤンフェーウー」の横顔

形も違う。
「ヤング・リシダス」の開花直後は浅いカップ型で「ツーヤンフェーウー」に似ています。
しかし咲き進むと、縦に深い形になります。わたしは「抱え咲き」などの花型をいまだによく見分けられないのですが、「ケーキのモンブランみたいな形」です。


香りも違います。


なんといっても最大の違いは葉の色。
「ヤング・リシダス」は黄緑がかった明るい葉色。メタリックな花色とよく合っていると思います。


「アフリカ・スター」咲きかけ
「アフリカ・スター」咲いた


アフリカの星!
「アフリカ・スター」も咲きました。
ゴージャス!
まさにアフリカの星!


香りも素晴らしい。




















最後は二人仲良く並んだ「エグランティーヌ」。
すばらしい香りです。











2012年5月20日日曜日

パイエーケス人の園を離れて

 関東ではバラの一番花の季節です。狂喜乱舞するロザリアンたちのブログに自慢のバラの写真があふれる季節です。わが家でもやや遅れ気味ですが咲き始めました。


 今年のバラはあまり期待していません。
「パイエーケス人の園」(前口上参照)を離れ、3月末に新居に引っ越してきました。
植え替えの時期を過ぎていたのですが、やむを得ず地植えのバラを強引に鉢植えにして運んできました。


引っ越し当日のパイエーケス人の園
「パイエーケス人の園」は広い庭のある借家でした。左の写真がそのアプローチ。平屋のまわりに100坪を超える薔薇園を作り、やがて来る終わりの時を想って「パイエーケス人の園」と名づけました。終わりの時は意外に早くやってきました。


トラックに乗るのを待つ鉢植え
 数千冊の本を含むトラック4台分の膨大な荷物には絶望的な気持ちになりました。その整理と片付けは当分終わりそうもありません。バラの手入れにかける時間がなくて、水をやる・虫を手で殺す・米ぬかと肥料を撒くだけでしたが、それでもバラは咲いてくれます。






エグランティーヌの蕾
 さて、「パイエーケス人の園」をあとにして新居で咲くバラたちの紹介です。デヴィッド・オースチン作のイングリッシュ・ローズ「エグランティーヌ」。柔らかな花色と包容力のある花型。しかし頑健です。日当たりがよくない場所でも咲く。わたしは蕾の形が好きです。




ラリー・ダニエルズ
 廃園で再発見されたオールド・ローズ(「ファウンド・ローズ」というグループです)の「ラリー・ダニエルズ」。同じピンクでもこちらは透明感があります。花弁もより薄い。





 花束に使うようなバラを「モダン・ローズ」と言います。
 「オールド・ローズ」は古い品種群で、おおまかに言えば、モダン・ローズに較べて花弁の数が多い、花弁が薄い、花首が細い、花持ちが良くない(だから花束に使いにくい)といった特徴があります。香りが良い。風情があります。

 オールド・ローズの花型とモダン・ローズの四季咲き性を併せ持つ「モダン・シュラブ」は、デヴィッド・オースチンの「イングリッシュ・ローズ」シリーズをきっかけに世界に広がりました。ドイツのタンタウ、コルデス(デヴィッド・オースチンとならんでわたしがいちばん好きな育苗家)、フランスのギヨー、デルバール、メイアンなど、名だたる育苗会社が腕を競って新品種を作出しています。

上の写真はギヨーの「ヴェルシーニ」。アプリコット〜ピンクに微妙に変化する色合い。
葉に黒点病が出ていますが、真島康夫の『バラの診察室』を読んで以来、わたしはほったらかしにしています。土をきちんと作ればちゃんと咲き続けます。


オールド・ローズの「スヴェニール・ダルフォンス・ラバレー」。パイエーケス人の園でアーチに絡ませていたのを乱暴に切り詰めて持ってきました。深い花色と良い香り。次から次に蕾が上がってきます。日が経つと手前の花のように紫がかってくる。

新居でもこれから立てるアーチに絡ませるつもりでしたが、花は上向きだし、こんな感じで切り詰めておこうかなと考え直しています。









「ツーヤンフェーウー(紫燕飛舞)」。英名もありますがこちらの名前の方がイメージ喚起力があって好き。剛健で花付きがよい。半日陰でも咲く。そしてきれい。


イングリッシュ・ローズの「ヤング・リシダス」。買って一年なのでまだ株が小さい。花首が細いので高く育てて上からしなだれさせたい。しかしこうやって上下に並べて見ると「ツーヤンフェーウー」と似ている。日が経ってからの色の変化はまだわかりませんが、今のところ、やや繊細さに欠ける印象です。



 個性的なコッパーオレンジのイングリッシュ・ローズ「パット・オースチン」。鮮烈でスパイシーな香り。大輪で目立つだけではなく、微妙な色合いの変化があります。かなり好き。
横から見た姿の美しいこと! まさにカップ&ソーサー。


そしてイングリッシュ・ローズ「フォルスタッフ」。堂々たる花型、深い色合い、高貴な香り。大輪で王者の風格があります。これも一年目で株は小さいのですが、アーチに上らせる予定。



 日当たりの状況などをじっくりと観察して冬にすべての鉢植えを地植えにします。
水やりが面倒なのでもともと地植えにするつもりだったのですが、観察していて地植えにしなければ大変だとわかりました。 


 新居は、建て売り10数棟がかたまっているうちの一棟。 
どの家も庭がほとんどないので建て込んでいます。 


日当たり良くない。 
そして何より風が強い。 
ミニ・ビル風状態で、鉢が倒れる。風で鉢が乾燥するのが早い。 


地植えにして壁に登らせないと、根張りと日光を確保できなさそうです。 


おもしろいのは、風が強いので虫が少ない。吹き飛ばされるんだと思います。 












2012年5月9日水曜日

春キャベツとアンチョビのトマトソースパスタ


 イタリアでは定番のパスタのようです。春キャベツを大量に処理する必要があって作りました。


 このパスタは、一般的なトマトソースパスタよりトマトの量を少なめにします。生トマトの方が望ましいのですが、今日は切らしていて缶詰にしました。

 パンチェッタ(塩漬け豚)とズッキーニはなくてもかまいません。あまっていたから使っただけです。イタリア人なら「いろいろ入れすぎ」と言うと思います。パスタは材料を活かすシンプルなのがいちばん。


 ベーコンはやめた方がいいと思います。カルボナーラでもそうですけど、ペーコンの燻製香がくどい。入れるならパンチェッタです。


春キャベツとアンチョビのトマトソースパスタの作り方(3人分)

《材料》
パスタ 300g
キャベツ 3/4玉
パンチェッタ(塩漬け豚) 100g
アンチョビの塩漬け  6~7枚
玉ネギ 1 個
ズッキーニ 1/2本
トマトの水煮缶 2/3 (あるいは生トマト2~3個)
ケッパー 大さじ2
EVオリーブオイル 適量
白ワイン(あるいは上質の純米酒) 大さじ2杯
塩・胡椒 適量


【1 材料を切る】
  • ニンニクは薄くスライス。玉ネギはみじん切り。ズッキーニは拍子木。アンチョビとケッパーは雑に切る。
  • キャベツはザク切りにしてざるに上げておく。

【2 トマトソースを作る】
  • フライパンにパンチェッタを入れ、じっくり炒めて油を引き出す。
  • エクストラヴァージン・オリーブオイル(以下 オリーブオイルと略します)を入れ、ニンニクを弱火でじっくり煮る気持ちで炒める。玉ネギを入れて中火で炒める。塩胡椒で軽く味つけ(アンチョビが塩辛いので)。
  • 玉ネギが半透明になったらアンチョビ、ズッキーニ、白ワイン(あるいは上質の純米酒)を加えて炒める。
  • トマトの水煮、ケッパーを加える。味を調え、しばらく炒めてトマトソースを作る。
















【3 パスタを茹でる】
わたしはトマトソースにトマトを放り込むあたりでパスタを茹ではじめます。
  • パスタを茹でる鍋に多めの塩を入れる。
  • パスタを指定より1分半短い時間茹でる。茹で上がる1分半前に鍋に春キャベツを投入して強火にする(温度を下げないためです。もちろんしばらくしたら吹きこぼれないように火を調整する)。春キャベツがない季節は2分前。
  • パスタが茹で上がる30秒前に、茹で汁をお玉で1杯半、トマトソースに入れる。


【4 トマトソースであえる】
  • パスタとキャベツをザルでしっかり湯切りする。けっこうな体積になるので大きめのザルがよい。
  • すかさずトマトソースのフライパンに投入し、あおる。もしくはトングで激しくかき混ぜる。湯分とオリーブオイルを乳化させるためと、ソースをパスタにギュッとしみこませるためです。プロじゃないので写真のようにみっともなくてもかまわない。お上品にやっていたら腰抜けのまずいパスタしかできない。

【5 完成】
  • 皿に盛り、好みで上質のオリーブオイルをかけまわす。

2012年5月4日金曜日

サラダドレッシングとサンドイッチのお話

サラダの酢油ドレッシング(ヴィネグレット・ドレッシング)、酸っぱすぎないか? 

一昨日のテレビでも、噂の料理人 (?) 速水もこみち君がサラダに大量の塩を加えて、たまげるほどのレモンをしぼっていた。「もてようと思って料理をはじめたんです」と言っていたが、あのサラダを食わされた女性は引くと思う。 

地中海を旅行してサラダのおいしさに感激した。若かったので理由はわからなかったが、あとではたと膝を打った。 

酢の分量が少ない。だから野菜の味が死なない。 


フレンチの鉄人、石鍋裕も油と酢の比率を4:1だと書いている。 
日本のたいがいのレストランは同量くらいじゃないかと思う。酸っぱいよ。 


イギリスの短編小説の名手(『チャーリーとチョコレート工場』の原作者でもある)ロアルド・ダール(「ロアール・ダール」が原音にちかいようだけど)に、「バトラー(執事)」という小説がある。 

ヨーロッパの階級社会の恐ろしさと残酷さを教えてくれる名短編。 

主人公は上流階級の仲間入りをしたくてたまらない成金。 
執事とフランス人の料理人を雇って、セレブたちを自宅に招待してパーティーを開くんだけど客はちっとも感心してくれない。 

「なぜなんだー!?」労働者階級出身の彼は、執事と料理人に教えを請う。 
けなげです。 

そのときの料理人が言うアドバイスがね、 
「あなたが出すサラダは酸っぱすぎる。おいしいサラダとは、上質の油にレモンを一絞りだけです」 

石鍋シェフより酢が少ない! 
速水もこみち君、聞いているか。 

けなげな成金君は、最後に執事と料理人に残酷な仕打ちを受けるのですが、その顛末は書きません。 

でも、この短編はヨーロッパの上流階級の本質を恐ろしいほど言い当てています。 



上流階級とは、お金を持っていることではない。 
「文化資産」を自然に身につけていることだ。 



成金の主人公は何がいいワインなのか、何がおいしいサラダなのかをけなげに学習し、努力します。 

でも彼には学習はできるけれど体でわからない。 
「マニュアル人間」ということです。 


上流階級ではないけれど「体でわかっている」執事と料理人は、そんな主人公をコケにする。

残酷です。でも現実です。 



ドレッシングの酢の量に対する感覚は「文化資産」なのです。 





勘違いしないで欲しいのは 
わたしは「文化資産だから自動的にすぐれているし守るべきだ」とは必ずしも思っていないということです。 

なんてったってわたしはカウンター・カルチャーの世代の端くれです。 
エスタブリッシュされたものをまず疑う、というのを十代でたたき込まれました。 

おかげでうーーーんと回り道をして、エスタブリッシュされた文化の価値を疑り深く再点検した上でその意義をようやく肯定する、というめんどくさいやり方が身についています。 


少ない酢はエスタブリッシュされた文化伝統です。 
伝統だから守るべきだというのではなく、その方がおいしいというのは歴然とした事実です。

「味は好みじゃねえか」と言う人もいると思う。 

それは基本的にわかるけど、でもね、 
「好み」だけじゃ文化じゃないと思う。 

文化とは共有だから、多数の人が納得する「好み」とそうじゃない「好み」の差は認めるべきだと思う。 

酢は少ない方がおいしい。 
食べ比べてごらん、としか言いようがないですけど。 

わたしは上質のオリーブオイルと上質の酢(良いバルサミコか「千鳥酢」)を5:1にしています。 



思い浮かんだもうひとつの文化資産はキュウリのサンドイッチ。 



いつぞやの「踊る! さんま御殿!!」のゲストに、ちょっと美人のモデルの、イギリス人のお父さんが出たことがあった。 

おかしな外人という色もの扱いだったんだが、そこで彼が 
「料理好きですよ。キュウリのサンドイッチとか作ります」 
と言ったときに、さんまが 

「キュウリのサンドイッチかい!」と大笑いした。 

イギリス人のお父さんは傷ついたと思うが、紳士だったので何も言わなかった。 




キュウリのサンドイッチがイギリス人男性にとってどれほど大事なものか、さんまは知るよしもないだろう。 

キュウリのサンドイッチの意味を日本で最初に伝えたのは犬養道子だと思う。 
犬養さんはキュウリのサンドイッチこそサンドイッチの最高峰だと書いている。 

シンプルだからこそ最高に難しい。 

パンとマヨネーズに何を選ぶか。 
キュウリをいかに薄く切るか。 
キュウリとマヨネーズの比率をどうするか。 

ほんとにむずかしい、と犬養さんは書いている。 




藤原伊織のハードボイルド小説『テロリストのパラソル』の主人公がやってる新宿のバーで唯一出すつまみがキュウリのサンドイッチだ。 

主人公の店に押し寄せたやくざたちが腹を減らして食い物を出せと要求する。 
主人公はキュウリのサンドイッチを出す。 

三下たちは「キュウリのサンドイッチかよ」と馬鹿にするが、親分だけは一口食べてうなり、
「簡単だからむずかしいんだろうな」と評する。 

わたしはこの場面は犬養道子からとっていると確信している。 





イギリスの男たちはほんとうに真剣にキュウリのサンドイッチを作る。 
どれもすばらしくおいしかった。 


明石家さんまはそういう文化伝統を知らないのだ(芸人だからしようがないんだけど、でもイギリス人のお父さんを傷つけたのは事実)。 




ついでにもうひとつ文化資産としてのサンドイッチを書くとね。 


ピーナッツバターとオレンジ・マーマレードのサンドイッチ。 


食べてみて下さい。おいしいです。 
イギリス上流階級のサンドイッチです。