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2016年12月3日土曜日

日本の職人技——オーレ! フラメンコ1


フラメンコを習いはじめて2年半になります。


若い頃、踊るのは好きだった、と思う。
ディスコ (!!) にときどき行ってたし、
大学の寮の「ボール」(と呼んでいたダンスパーティー)でも踊る方だった。
自己流のいい加減な踊りでした。
でもリズムに乗るのは好きだった。


それ以後ずっと踊りにはご無沙汰していたのですが。
還暦が近づいた頃にむしょうに踊りたくなった。

というか。

それまで体の衰えを深刻に感じたことがなかったのですが、
感じはじめたときに、とても逆説的なのですが、
「人間は結局体だ」
という感覚を強くおぼえ始めました。

「健康でなければだめだ」ということではありません。
そうではなくて、
「美しい体こそが人間の本質かもしれない」
と感じはじめたのです。


20年以上前の話ですが、
夏の青山の裏通りで前から美しい女性が歩いてきた。
顔も美しかったのですが、
何よりも度肝を抜かれるような体でした。
ただただ感嘆するしかないような鍛え上げられた美しい体。

その女性が脇の建物に入っていった。
「Beatrium」というビューティーサロンでした(今も健在のようです)。
なるほど、と腑に落ちました。
そこの店員さんだったようです。
美しい体が途方もない説得力を持つものなんだ、
ということをはじめて合点した体験でした。


そういう体験が還暦を間近に控えてよみがえってきました。


体が滅び始めたからこそ、逆説的ですが
「美しい体を持ちたい」
と無性に思い始めました。

それで踊りたくなった。
踊り手の体ほど美しい体はないから。



やるからにはカルチャースクールのレベルではいやだ。
きちんと踊りたい。

クラシックバレエは無理です(奥さんがやってるし、バレエは好きなので時々見てるからそのバーレッスンの激しさは知っている)。
30代なら始めたかもしれませんがこの年では不可能。

ソーシャルダンスとフラメンコ、どちらにするか迷いました。

パーティーなんかでしゃしゃっと女性をリードして踊るのはかっこいいし、
社交の素養としても必要だと思いました。

が。
ソーシャルダンスは相手がいないとできない。
わたしはずっと武道をやっていたので1人練習が好きです。
東大ソーシャルダンス部は女性が少なくて、男子部員はふだんほうきを相手に練習しているという話をどこからか聞いて、
「何が悲しゅうてほうきを相手に練習せにゃならんのか」
と思い、ソーシャルダンスは消去されました。

フラメンコは個人の表現ができる。
それでフラメンコにしました。

2、3のスタジオの体験レッスンを受けて、
今通っているスタジオに決めました。

素人目で見ても先生の踊りのレベルが高かった。
そして教え方がすばらしかった。
(わたしは予備校教師だったし現在は大学の教員なので、教え方の優劣の判断力には自信があります)
その選択は正しかったと思っています。
まじめで厳しいスタジオです。

スタジオとその先生たちについてはいずれ書くとして。



今日の話題は、フラメンコシューズ

ご存じのように、フラメンコは靴で床を激しく打ち鳴らします。
音を出すために、フラメンコシューズの靴底のつま先とかかとには釘がたくさん打ち込んであります。

新品の時のメンケス
靴底の釘に注目してください
習い始めたときにスペインのメンケスというメーカーのフラメンコブーツを買いました。

フラメンコをやる男性は少ない。
100人近くいるわたしのスタジオでも男性はわたしを含めて二人だけです。

そういうこともあって、男性用のフラメンコシューズの選択肢は少ない。
黒かスエードの茶。
ほぼそれしかないと言っていい。

つまらない。

で、
自分好みの靴を持ちたくなりました。

偶然なのですが、
なじみの「ポールスミス」に、フラメンコをやっていた女性の店員さんがいて、
「普通の靴をフラメンコシューズに加工したいと思ってるんですがどうでしょうか」
と質問してみた。
ポールスミスのかっこいい靴で踊れたらいいと思ったので。

そしたらその店員さん、しばらく考えて、
「うちの靴はコバが出ているからだめだと思います」
と言った。

コバってわかりますでしょうか。
靴底の外にはみ出ている部分です。
メンズの革靴は程度の差はあれたいていコバが出ています。

自分のフラメンコシューズをあらためて眺めてみると、
たしかにコバは出ていない。
貴重な情報でした。

ふつうの革靴をフラメンコシューズに加工するのは無理なのかな、
と思いましたが、
つまらない黒靴で踊り続けるのは嫌気がさしていたので、
冒険してみることにしました。

ネットで調べたら、フラメンコシューズの釘打ちをしてくれる店が我が家からそれほど遠くない東中野にありました(「Basement」)。

コバが出ていない柔らかい革靴をさがしてその店に持って行きました。
ネイビーブルーのきれいな形の靴です(はじめての試みなので合成皮革の安い靴にしました)。
「フラメンコシューズに加工? できますよ」
ええーーーっ!!

美しいヒール
ヒールを木でつけ足し、靴底を補強して釘を打ち込む。
3週間以上かかって今日完成してきました。


受け取りに行ったら、店員さんがうれしそうな顔で
「いい仕上がりになりましたよ。見てください」
と差し出す。

度肝を抜かれました。
見事な細工。

ヒールの美しさもさることながら、
釘打ちの見事さ。
スペイン製のフラメンコシューズの釘打ちが小学生の工作に思えるほどの、
それはそれは緻密で美しい打ち込み方。
上のメンケスの靴底と較べてください。
見事な釘打ち

3週間以上かかるはずです。

びっくりしているわたしを見て店員さんは、
「この職人さん、たぶん日本で有数の釘打ち技術を持ってる人です」
と言ったあと、
「細工としては申し分ない。あと問題があるとしたら音だけですね」。

日本の職人技のすごさをあらためて認識しました。



そのままスタジオで個人練習。
靴はブーツより圧倒的に軽い。

鳴らしてみました。

力が全然要らない。

足全体で打つ「ゴルペ」は、切れがあるがちょっとシャープすぎる気がします。
しかし踵で打つ「タコン」は床に触っただけでコンときれいな音が出る。
感動したのは爪先で打つ「プンタ」。
鼓のような澄んだ音がする。

参りました。


ゴルペは明日スタジオのレッスンで打ってみて最終評価をすることにしますが、
全体的には大満足。
何より自分の好きなデザインの靴を選べるし、ブーツより軽い。
サパテアード(ステップ)が軽々と打てる。
前の靴が鉄下駄のように思えてきました。


自分好みの靴を作れることがわかったのはうれしい。


冬のボーナスが入ったらあと2足作るつもりです。
赤い靴と、コンビの靴。

楽しみ。



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