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ラベル 現代日本、テレビドラマ、ラムネモンキー、スティーブン・キング、IT、 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2026年3月27日金曜日

こうなった『ラムネモンキー』

(承前/ネタバレあり) 

『ラムネモンキー』完結。

前回の投稿「どうなる? 『ラムネモンキー』」で、結末に向けて次の三つが気になると書きました。

その1
贈賄事件について兄はユンに「罪を認めて情状酌量・和解を求めたほうがお前にも会社にも得になる。そうしろ」と言ってきた。ユンはとりあえず納得しているのだが、田辺町の過去と兄のつながりが明らかになった今、ユンは裁判にどうのぞむのか?

その2
キンポーは認知症の母の訪問介護に来ているシングルマザー三島ひろ子に紳士的な恋心を抱いている。彼女がマチルダの娘らしいことは顔を見ればわかります。二人はどうなるんだろう?

その3
3人組がマチルダと交わした「約束」は何だったのか?
スティーブン・キング『IT(イット)』でも最後の山場は過去の約束の場面でした。
「ラムネモンキー」は、「約束」を通じて『IT(イット)』にどんな応答をするのだろう?

で、どうなったか?


1. 「その1」について

前回までに、3人組はマチルダ殺害の実行犯がチンピラ「アホの八郎」と暴力団員である竿竹屋であり、その背後に田辺町再開発計画をすすめる力があることを突き止めます。しかしアホの八郎は「証拠がないだろう。ざまあみろ」と嘲笑う。

また、マチルダの過去もようやく明らかになります。白馬(はくば)のSNSを見てマチルダの元夫が連絡してくる。元夫のもとを訪れた3人は、中学に来るまでのマチルダの過去をはじめて知ります。

マチルダは子供を生んだが、子供は幼くして死んでしまう。悲しみに暮れるマチルダと元夫は離婚した。

元夫は、マチルダから最後に来たハガキを見せてくれる。そこには、

 「元気です」そして「キレイに生きたい」とあった。

田辺町開発計画の推進者たちは、開発計画の闇を知ったマチルダを買収しようとするがマチルダは拒絶。それが原因でマチルダは殺害された。


1988年の事件の全貌をほぼつかんだ3人組は、当時の田辺町再開発計画の黒幕であり、現在 (2025年) のユンの「贈賄事件」の賄賂を受け取った人物でもある国会議員・加賀見六郎のもとを訪れ、問い詰めます。

加賀見を演じるのはおちゃらけ高田純次。どれだけ悪辣さを出せるのだろうと危惧していたのですがなかなか良かった。

3人組を迎え入れる加賀見はプリンを食べている。ニコニコと「これ、ほんとにおいしいんですよ」と言いながら3人組を恫喝する。

チェンが監督をする伝記映画の主人公・成り金社長は自分の知り合いだからお前を監督から干すのは簡単だ。キンポーの母の介護に来ている三島ひろ子はわたしの声一つで来られなくできる。ユンと西野白馬にもそれぞれへの恫喝をにこやかに伝える。

そして「よかったら食べてください」とお土産にプリンを渡す。

集合場所である「ガンダーラ珈琲」に集まった3人組と西野白馬は、それぞれ加賀見からもらったプリンを持ってきている。

白馬が「毒まんじゅうですね」とみごとに言い当てる。食べれば恫喝を受け入れることになる。4人はプリンを前に思いまどう。

予想外の展開。

突如アホの八郎があらわれ、4人を嘲笑してすべてのプリンをかっさらってゆく。結果として4人は毒まんじゅうを食べなかった(加賀見の恫喝を拒絶した)ことになります。そしてこれが大団円への伏線にもなっている。


ユンは裁判で正面から戦い、収賄した加賀見を道連れにする決意をします。「大変だぞ。家族をどうする」と心配するチェンに、ユンは「なんとか説得するさ」と自信なさげに答える。

のですが。

裁判で争う決意だ、だから離婚に応じるつもりだ、と切り出したユンに、妻絵美(えみ)は全面支援すると言う。娘の綾(あや)も。

この家族回復には伏線がありました。

身元不明扱いのマチルダの骨をユンは引き取って段ボール箱に入れていたのですが、マチルダ失踪の謎をどうしても解こうするユンに、絵美は「いいんじゃないの。その骨はきっとなにかをあなたに伝えようとしてるんだから」と言います。なぜでしょう?

過去を探り始めたことでユンは変わりはじめた。生き生きしはじめた。

絵美も綾も(最終回までは)はっきりそうは言わないのだけれど、そういうユンの変化に気づいて受け入れていく。それが家族回復につながっていく。最終回に向かうにつれて、絵美と綾の顔が明らかに生き生きと美しくなっていきます。


2. 「その2」について


訪問介護師の三島ひろ子がマチルダの娘だ、という予測は大外れ。
でも、三島の顔がマチルダに似ているのは事実。キンポーは、たぶん自分ではきづいていないけれど、三島にマチルダの面影を見ているんだと思います。


3. 「その3」について


ユンは裁判で有罪判決を受けて懲役刑に服することになるが、それによって加賀見も逮捕される。見事に道連れにしたわけです。チェンも加賀見の恫喝に応じず、成り金社長の伝記映画の監督を降りる。二人はマチルダの「キレイに生きたい」ということばに背中を押されたのだと思う。

キンポーは加賀見の圧力を考慮して三島の訪問介護を断っていたのだが、それが杞憂に過ぎなかったことを知ります。三島が訪れてきて「どうしてわたしを呼んでくれないんだ」と言います。どうやら逮捕によって加賀見の恫喝は効果を発揮できなかったようです。キンポーのおずおずとしたデートの申込みに三島は喜んで応じます。


3人組と西野白馬は「ガンダーラ珈琲」で最後の(つもりの)会合を開く。

そして3人はマチルダとの最後の約束をようやく思い出す。

映画『炭酸拳 (ラムネモンキー)』の登場人物たちみたいに、君たちは自分より強い悪に立ち向かう気持ちがあるか。マチルダの問いに「あります」と答えた3人に、マチルダは言います。

「君たちがこれから生きていく社会は厳しいし辛いことだらけだ。でも、今の気持ちを心の片隅に残しておくことを約束して」「そして映画を完成させて」と。

田辺町を見下ろす丘の上での約束。このときおそらくマチルダは自分が殺されるだろうことを知っています。にっこり笑って去っていくマチルダ。

いちばん大事な約束を忘れてしまった少年たち。
でも3人ともマチルダ失踪の謎を解く過程で、実はマチルダとの約束を果たしてきていたのです。あの時みたいに「キレイに生きる」自分を取り戻すことで。

忘れてしまった約束。そして数十年後の約束の履行。

『ラムネモンキー』は、ひねりを加えながらスティーブン・キング『IT』に見事に応答しています。


4. 大団円


上の「ガンダーラ珈琲」の会合で、キンポーはとんでもない真実を明かしていました。

3人がマチルダ失踪の謎解きに乗り出すきっかけになった骨とボールペン。
あれは自分がネットで集めて現場に置いたものなんだ、と。

え、えーーっ!

3人の捜査がきっかけで、田辺町警察の鶴見はアホの八郎のマチルダ殺人を立証すべくようやく動き始めています。台無しじゃないか。

「だってそうでもしないと君たちは田辺町に来てくれないと思ったから」
テヘヘというキュートな表情でキンポーは言います。


ユンが刑務所に収監される前日、大どんでん返しが始まる
ストーリーは三つの軸で進みます。

1つ目は。

キンポーが「大変だ!すぐに田辺町に来てくれ」と電話をしてくる。

キンポーの認知症の母が、突然1988年マチルダ殺害の日の「秘密の段取り」を思い出して語りはじめた。

かけつけたユンとチェンに語った「秘密の段取り」とは。

3人組の親たちは開発推進グループに丸め込まれたかに見える。しかしマチルダ殺害計画を知ったとき(なぜ知ったのかは2つ目のストーリーの軸から明らかになります。おそらくアホの八郎から告げられたのです)、親たちはマチルダを救う段取りを考えます。

薬で眠らされ、重りの石を詰められた袋に入れられ、沼に沈められたマチルダを潜水具をつけて救い出し、その後の悪の追求から逃れさせるために新しい身分証を準備しておくという段取り。

段取りどおりにマチルダは救い出される。

キンポーの母の話をにわかには信じられない3人に白馬が爆発します。「これを信じられないなら、今までやってきたことは何なの?」と。


2つ目は、鶴見のアホの八郎捜査。
驚くことに、アホの八郎は暴力団の潜入捜査をする刑事で今もそれを続けている。
「お前もやってみないか?」とアホの八郎は鶴見を誘う。


3つ目は。
ユンの家の絵美と綾。ソファーに腰掛けて「これ面白いのよねー」と仲良く漫画を読む二人。
漫画の表紙がアップになります。
表紙の女の子が、これまで何度か出てきたマチルダが描く絵そのもの。作者の名は「マチャー」!


田辺町を見下ろすあの高台で、3人組はマチルダとのもう一つの約束を果たそうとします。
『炭酸拳』の最後の場面を撮影して完成させること。中年男たちのカンフーアクションが始まります。


「キレイに生きよう」としたマチルダ。マチルダによってすばらしい時間を持った少年たち。
忘れてしまったその時間が時を経て取り戻され、3人組はキレイに生きる力を取り戻す。
そしてそれを見てきた若い白馬も社会でキレイに生きていく決意をする。

軽妙だけれど、切なくて美しいドラマです。

そしてすばらしい最後の数秒。こればかりはネタバレできません。



2026年3月18日水曜日

どうなる?『ラムネモンキー』

フジテレビ『ラムネモンキー』、完結間近になりました。 
初回から毎回、予想もつかない展開。 物語は二つの時間軸に沿って進みます。 

 1988年
   舞台は神奈川県田辺町の中学校。映画研究部の3人の男子、
  「ユン」=吉井雄太「チェン」=藤巻肇(はじめ)、「キンポー」=菊原紀介(きすけ)の3人組は、 
  レンタルビデオ店の奥部屋を部室にしてカンフー映画を製作している。
  美術の臨時教師「マチルダ」=宮下未散(みやしたみちる)が彼らを見守る。

2025年
  51歳になった3人はそれぞれの人生を歩んでいる。
  
  ユンは兄吉井健人が取締役を務める「田澤物産」の営業部長だったが、身に覚えのない
  贈賄事件の被告として裁判を待つ身。事件はマスコミでも報じられ、
  妻と高校生の娘との関係は崩壊寸前になっている。

  チェンは夢だった映画監督になったものの、今は泣かず飛ばず。
  糊口をしのぐために鼻持ちならない成り金社長の伝記映画を製作せざるを得ない。

  一人故郷に残ったキンポーは漫画家になる夢を諦めて、家業の小さな理髪店を
  継いでいる。女手ひとつで育ててくれた母親は認知症。

田辺町で身元不明の白骨死体が発見されたというキンポーからの電話で、三人は37年ぶりに故郷に集まる。3人はマチルダが失踪したことをようやく思い出し、工事現場で骨を発見した女子大生、
西野白馬(にしのはくば)とともに発見現場に行き、ドロの中から見つけたボールペンから、
遺体がマチルダであると確信する。

マチルダはなぜ殺されたのか? 犯人は誰なのか?

ロートル中年3人組と西野白馬は、3人組が思い出す妄想を交えた記憶を手がかりに37年前の真実に迫ろうとする。

それがストーリーの骨格です。

しかし。
「ラムネモンキー」は単なる推理ドラマではありません。

最初に「初回から、予想もつかない展開」と書きましたがそれも当然。
各回の冒頭は、3人組が思い出した妄想混じりのエピソード。
3人組は中学生の記憶をある意味で失ってしまっていたのです。
そのエピソードをひとつひとつ確かめていく過程で、1988年の記憶の「妄想」から「妄想とはちがう真実」が少しずつ明らかになっていく。

それにつれて3人は、あの中学生時代がマチルダに支えられていた「輝く時間」だったことを再発見していきます。その再発見が、2025年を生きる彼らが抱えている空白感を埋めていく。

別の言葉で言えば。
中学時代の「輝く時間」を思い出すことで、現在の「わた」しが生きていく力を獲得していく。そしてほんとうの意味での「大人」になっていく。

でもそれは同時にとても辛い真理探求です。
過去のむごい真実、自分たちを取り巻いていた残酷な人間関係や社会にあらためて直面させられる。
そんな残酷な人間関係や社会の中で、謎に満ちた女性マチルダがどれほど自分たちを愛してくれていたかをはじめて認識する。

切ない。
この切なさが「ラムネモンキー」の魅力。



このドラマにインスピレーションを与えているのは、スティーブン・キングの中期の傑作『IT(イット)(1986。邦訳は小尾芙佐訳 文春文庫全4冊)だと思います。

1950年代のアメリカ、メイン州の地方都市のいじめられっ子ローティーンの仲間が、
町を襲う怪物の存在に気づき、恐怖と戦いながらその怪物に致命傷を負わせる。
だけれどもその恐怖のあまり怪物との戦いの記憶を失ってしまう。
仲間たちとの輝く友情の時間の記憶も失ってしまう。

数十年後、いじめられっ子グループはそれぞれ社会的に成功しているんですが、
それぞれなにがしかの「空白」を抱えている。要するにほんとうの「大人」になりきれていない。

故郷に再び怪物があらわれて人を殺していく。故郷にただ一人残った仲間からの電話でいじめられっ子グループの記憶がよみがえりはじめ、故郷に再び集結する。
過去に誓った「約束」どおりにあの怪物(ITイット)にとどめを刺すために。

その戦いを通じていじめられっ子グループたちは過去の記憶を少しずつ取り戻しながら、
中年の戦う力を獲得していきます。そして現在の自分たちの「空白」が埋まっていく。

ローティーンの輝いていた時間が、その当時のロックや映画やプロレスの引用で切なく描かれます。
「ラムネモンキー」も同じ。ジャッキー・チェンの『酔拳』(「ラムネモンキー」はもちろん「酔拳=ドランクモンキー」のもじり)だとかマイケル・ジャクソンだとか。

そして。
怪物(ITイット)が過去に死ななかった理由も似ている。
怪物は町に巣食う「暴力の歴史」を力の源泉にしているのです。
そのあらわれのひとつがいじめられっ子グループを襲う不良グループ。
「ラムネモンキー」でも3人組は隣の二中の不良グループにいじめられます。

もっと大きな暴力が『IT(イット)では描かれる。人種差別や同性愛差別。
そういう悪をエネルギー源にして怪物は蘇る。
前回の「ラムネモンキー」でそういう社会の大きな邪悪が明らかになりました。
田辺町の再開発計画。
「社会の木鐸」である新聞記者を目指していたユンの兄健人は開発会社に取り込まれてしまう(その結果、現在の「田澤物産」の取締役にのぼりつめている)。
キンポーの親たちも開発会社に金をもらって懐柔されてしまった。
田辺町にはそういう悪の力があったし、現在まで続いている。

「ラムネモンキー」が『IT(イット)』のパクリだと言っているのではありませんよ。
『IT(イット)』がとても普遍的なテーマを提示していて、その普遍性がいろんな作家の創造性を喚起する、ということです。
(たとえば『IT(イット)』のすぐあとにキングと同じホラー作家ロバート・マッキャモンもほぼ同じ骨格の小説を書きましたし、日本にもハードボイルド作家の小説があります。原尞だと思ったんだけど著作リストに出ていないので勘違いらしい。手元に見つからないのでどなたか教えてください。マッキャモンのは駄作ですが日本のはけっこう良かったです)

「ラムネモンキー」は、「過去の記憶を巡る切ない探求」というすぐれた文学の型のひとつだと言ってるんです。


で。
前回、それまで無関係だと見えた過去と現在のつながりがはっきりした。

最終話はどうなるのか?

わたしの興味は3つです。

その1
贈賄事件について兄はユンに「罪を認めて情状酌量・和解を求めたほうがお前にも会社にも得になる。そうしろ」と言ってきた。ユンはとりあえず納得しているのだが、田辺町の過去と兄のつながりが明らかになった今、ユンは裁判にどうのぞむのか?

その2
キンポーは認知症の母の訪問介護に来ているシングルマザー三島ひろ子に紳士的な恋心を抱いている。彼女がマチルダの娘らしいことは顔を見ればわかります。二人はどうなるんだろう?

その3
3人組がマチルダと交わした「約束」は何だったのか?
スティーブン・キング『IT(イット)』でも最後の山場は過去の約束の場面でした。
「ラムネモンキー」は、「約束」を通じて『IT(イット)』にどんな応答をするのだろう?