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2012年11月6日火曜日

秋冬物

すみません、単なる買い物日記です。


若い頃、洋服屋に入るのが苦手でした。
寄ってくる店員さんに気後れしてしまい、何を話していいかわからなかった。

40歳くらいまで預金残高ほとんどゼロの生活だったので服を買う余裕もあまりなかった。





ポール・スミスのTさんに出会ってから服に対する態度が変わった気がします。

きさくなベテランの店員さんで、的確な助言をする。
「お似合いですね」とほとんど言わない。

だんだん話すようになりました。
今では買わないでおしゃべりだけのこともけっこうあります。

ポール・スミス、色やデザインも好きですが、なんというか、
さりげなく客を説得し、啓発しようとする態度が見られます。
売りたいだけでなく、自分の商品の良さを世間に広めたい、という布教・折伏(しゃくぶく)の志。


スリムなスーツが出始めた頃、
わたしはあいかわらずタックの入ったパンツを履いていて、
まだポール・スミスにも一部そういうスーツが置いてありました。

スーツを一着買ったとき、シャイな店長さんがぼそっと
「スリムなのも一度着てみるといいもんですよ」
と言ったのが何となく気になって、半年後にスリムなスーツをはじめて買いました。

以後、サイズに敏感になった気がします。

いろいろ楽しく教えてもらいました。
おかげで他の店に入るのも楽しくなった。
どんどん試着して、質問して、おしゃべりする。

本気で組み合わせを考えてくれる店員さんもけっこういることがだんだんわかってきました。

ポール・スチュワートのOさんもそうだった(移動になって、もうわたしが行く店にはいない)。



どうしても合わせられなかった Kenzo の金色の派手なネクタイを持ち込んで、

「水色のシャツしか思いつかないけど、しっくりこないんです」
と相談しました(その直前に別の店の若い店員に同じ相談をしたら、自信なさげに
「うーん、白ですかね」と馬鹿でも思いつく答をしたのでうんざりしていた)。


Oさん、しばらく考えた。
ほかの店員たちが横目で注目している様子だったので、
「ああ、Oさんは腕がいいんだ」
とわかりました。

おもむろに
「うちに置いてあるシャツではこれとこれです」
と二枚のシャツを選びました。考えもつかない斬新な組み合わせです。




Tさん、Oさんのおかげで店員さんとのやりとりが少しわかりました。
年に一度しか行かなかったのに、フィレンツェのエトロの店員さんは覚えてくれました。

何度目かの訪問で、エトロにしかないマルチカラーのシャツを買って
「これにどんなタイを提案するか?」
と聞くと、2本選んでくれました。

きれいに合うんですがおもしろみがない。
で、

「これは確かに美しい組み合わせだが、わたしはもっと冒険的な組み合わせを望む。
なんといったらいいか、そうだ『バロック』だ。わかるか?」

と言いました。挑戦してみたわけです。

「『バロック』か、わかった。ちょっと待て」

店員は、タイを並べた棚の下の引き出しを開けました。

おお!!
そこには、上の棚とはまったく違う、悪趣味な柄物のタイがずらりと並んでいます。

店員は緑の美しい柄物を選んで
「どうだ!」

わたしは一目でグラリと来て「これを買う」と言いました。

でもそのあとがあるんです。
レジに向かう途中、彼は
「ちょっと待ってくれ。もうひとつ思いついたので見てくれ」
と言うんですね。

もう1本、やや地味な(それでも十分に度肝を抜くデザインの)タイを合わせます。
「お前はどちらを選ぶか?」
わたしはしばらく迷って、あとの組み合わせを選択しました。

すると彼はニッコリ笑って
「わたしもその選択の方がいいと思う。緑との組み合わせは、やり過ぎた I did too much」
と言ったんですね。


前の組み合わせは彼には満足できなかった。
自分の美意識をかけて選んでいるのだ、とわかりました。

店を出るときに「楽しかった」というと
「わたしもだ。小さな冒険をした」とニヤッと笑いました。


その経験から、服を選ぶゲームが楽しくてしようがなくなった。
いい店員さんがいる行きつけの店が数軒できました。




で、秋冬物です。

10月に写真のキャメルのジャケットを衝動買いしました。初めての店です。
店員は「こげ茶のコーデュロイのパンツ」を勧めたのですが、ありきたりでわたしも考えていた組み合わせ。


その足でポール・スミスに向かい、Tさんに相談。

「けっこう難しい組み合わせですね。今うちにはこれにあうパンツはないです。歩きのオスさんのこれまでの趣味じゃないえんじ色のコットン・パンツがいいと思うんですけど」
(自分とこのパンツを売ろうとしないところが立派。自分の美意識に忠実です)


むずかしい。Tさんに宿題を出された感じでした。

わたしなりの宿題の答が写真の組み合わせです。
「えんじ色のコットン・パンツ」を買うのはシャクなので
チェックのコットン・パンツを探して「ノリーズ」Nolley's で見つけました。

ジャケットの襟のデザインが面白いのですが、ガチャガチャしているので柄物のタイは合わない。いろいろ考えて、緑のソリッド・カラーのタイを、「ポール・スミス」にTさんがいない時を見計らってこっそり買いました。





数日後に、これを着てTさんに見せに行きました。
「合格ですか?」と笑って尋ねると、

合格でした。

「でも」とTさんは言ってネクタイを1本取り出し、
「これを合わせたらどうでしょう?」

参りました! すごい。
Tさんに敬意を表して買いました。悔しいので写真は載せません。


でも一応合格したので嬉しくなってジャケットを買った「モルガン」Morganに直行。
買ったときの店員さんがいて
「おお、そう合わせましたか」
と喜んでくれました。お世辞でも嬉しい。

しゃべってみるとこの店員さん、なかなかいい。


彼がハリス・ツイードと革のコンビの変わった靴を勧めてくれた。
存在感がある。
履いてみると、細身のチェックのパンツとの組み合わせがちょっとミッキーマウスっぽくなって、俄然、斬新になる。
買ってしまいました。


同じ日に写真の帽子も買いました。
ベーシックなものは大体持っているので、遊び心満載のやつを探していました。
ちょっと勇気がいるのですが、右の写真のように組み合わせようかと思っています。靴はもちろん上の写真のやつ。





















2012年11月2日金曜日

真鯛のマスタード・ソース

マスタード、好きです。

固茹で卵を半分に切ってディジョン・マスタードを塗ったのは、ウィスキーのつまみに最高。

粒入りマスタードを使ったマスタード・ソースもよく使います。
真鯛、メバル、鮭などの魚、鶏の腿肉のソテーなんかにも合います。



真鯛のマスタード・ソースの作り方(4人分)

《材料》
真鯛       4切れ

ブロッコリー   適量
パセリ      適量

生クリーム          50cc
EVオリーブオイル  適量
粒入りマスタード   大さじ1杯半
鶏ガラスープの素   適量
白ワイン(または純米酒) 適量
塩          適量


【1 下ごしらえ】
・真鯛の切り身に塩を振っておく。ソースの塩分が少ないので、しっかり塩味をつける。
そうは言っても塩加減は難しい。量ったことないし。いつも勘です。
・パセリはみじん切り。
・ブロッコリーは房に切り分け、少量の塩を加えた湯で茹でておく。

【2 鯛を焼く】
・フライパンにオリーブオイルを入れ、真鯛を皮の方から先に焼く。しっかり焼き目をつけたら裏返して軽く火を通す。焼き上がったら皿に置く。


【3 ソースを作る】
すばやくフライパンを洗い、生クリーム、水、鶏ガラスープの素、白ワイン(または上質の純米酒)、粒入りマスタードを入れて温める。
・味を調える。塩分は控えめに。
・白ワインのアルコール分が飛んだな、と思ったらパセリを入れる。


【4 完成】
・マスタード・ソースを鯛にかけ、つけ合わせのブロッコリーをあしらって完成。


2012年11月1日木曜日

オクシュモーロン

表現はつまるところ説得だと思います。

論理的な表現は「えーと、君はこれを納得してもらえるだろうか」という控えめな説得。
詩や小説は「こら、納得せい!」という過剰な説得。

で、その過剰な説得である詩を、古代ギリシア人は一方で、詩の女神ムーサの息吹を感じることができる天賦の資質の産物だと考えていたのですが
(あらためて言うまでもなく、ホメーロス『オデュッセイアー』の冒頭は、
「ムーサよわたしに語り給え、かの男(オデュッセウス)のことを」
という詩人の立場表明)
同時に、表現を学習・習得可能な技術(テクネー)だとも考えていました。

技術ならば分類・説明ができるはず。
ギリシア人はそういう表現の技術を徹底的に分析しました。

説得術(レトリック)はそういう分析です。
「言葉の彩」figures はそのレトリックの一部門。
直喩、隠喩、換喩・・・・
さまざまな「凝った」表現は、ギリシアのレトリックでもうたいがい網羅されちゃってる。

「オクシュモーロン」(oxymoron, 撞着語法)もそのひとつです。
オクシュモーロンは「賢い馬鹿」という意味。
もうお分かりでしょうが、
矛盾する二つの概念を並列する技法です。


印象に残る言い方だ、と直感的に思います。
もう少し考えると、この言い方は
「賢い」とか「馬鹿」とかの意味って本当は何なんだろう?
という、ふだんあまり疑問に思わない「言葉の意味」を考え込ませる効果があるんだと思います。



で、秀逸だと思う現代のオクシュモーロンを二つ。

アデル Adelle の "I set fire to the rain"。
「わたしは雨に火をつけた」

切ない歌です。

雨の失恋の歌、といえば何てったって森高千里の『雨』。

でもアデルを聴くと森高千里は「おお、素麺の歌だ」と思います(好きですけど)。
アデルは「ビーフステーキの歌」。ごつい切なさ(オクシュモーロン!)。



二番目は、桑田佳祐の
「マイナス100度の太陽みたいに 体を湿らす恋をして」(「真夏の果実」)。

すごい。

関ジャニ∞の「マイナス100度の恋」よ、恥を知れ。
君は本家に及ばない。





2012年10月22日月曜日

この金色の不定型な液体

先週、集中講義に呼ばれて福岡に行ってきた。
4日間で90分授業を15コマというハードスケジュール。

準備していた講義は、ギリシア悲劇を裁判員へのリテラシー教育として読むとどうなるかというもの。聴き手のほとんどは英文科の大学院生で、優秀で熱意がある。で、サービスしたくなって、映画『ロード・オブ・ザ・リング』やコールド・プレイの『Viva la Vida』の文化背景など、予定外の脇道にも力が入ってしまった。

でも今日書きたいのは講義の話じゃありません。

福岡のバーの話から。



ホテルに泊まらず、実家から大学に通いました。
実家はダウンタウンの天神から徒歩15分のところにあります。
昔は庶民的な商店と住宅があるだけの土地。
今はおしゃれなレストランや居酒屋がならぶモダンな地域になっています。
東京で言えば代官山みたいな感じでしょうか。


めったに帰らないので土地勘がなくなっている。
夕食の後で落ちついて飲めるバーを探したのですが、時間もないので見つからない。
これはもちろん昼間。感じよさそうです。
2日目に、地下鉄赤坂駅に行く途中によさそうなバーを見つけました。外のテーブルにアードベッグなどのシングルモルトの空き瓶が並べてある。
でも開いてなかった。



バーの名前はSOLO







3日目の夜、店の前に手書きのメニューを書いた黒板が出してありました。
ガラス張りの店内をのぞくと真っ暗。
「いや、メニューが出してあるのに閉まっているはずがない」と言い聞かせながら、おそるおそるドアノブに手をかけると開きました。

暗がりから「いらっしゃいませ」の声。
あんなに暗いバーは初めてです。

若いバーテンダー1人でやっている。
薄暗がりの中で、アイラ島のシングルモルト・ウィスキー「ブルイック・ラディー」の珍しいのをダブルでいただきました。おいしかった。

感じの良いバー。
でもなんであんなに暗いんだ!?



帰京後、妻の友人から高級なウィスキーを何本かいただきました。
20年ほど前に亡くなったお父様が遺したものです。
木箱から現れたOld St. Andrews


そのうちの一本がオールド・セント・アンドリューズOld St. Andrews 21年物。ですから、少なくとも40年以上前に作られたものです。ごたいそうに木箱に入っています。ラベルはボロボロ。


これは「さざ波」のぐい呑み。
お酒を入れると複雑な色合いに
輝く。
「さざ波」のグラス
吾妻橋のガラス資料館から手に入れた「さざ波」というグラスでそれを飲みました。

こんなにおいしいブレンデッド・ウィスキーは飲んだことがありません。
これから先飲めるかどうかもわかりません。

50年近い歳月が、馥郁たる香りと、何の角もない、でも深ーーい味わいに結晶していました。

いっしょに貰ったニッカの「竹鶴」、これも32年前のものです。
決して悪いウィスキーではありません。しかしこいつの前では水みたいに感じられます。

オールド・セント・アンドリューズの色は、田村隆一の「この金色の不定型な液体」どころではない。
琥珀色です。もっと濃いか。

とても贅沢な寝酒になりました。







洋梨

洋梨の季節です。

洋梨とペッコリーノのサラダを作りました。

なんということはない。グリーンサラダの上に洋梨とペッコリーノ・チーズを薄切りにしてのせるだけです。
しかしそのコンビネーションがなかなかいい。
ローマで何度か食べたことがあって、秋になったら作ろうと思いながら毎年チャンスを逸していました。

ようやく作ってみました。
おいしい。
のだけれど、気持ち洋梨が甘すぎる。
ローマではラ・フランスではなくて、甘み控えめでもっと固い品種を使っていたのでしょう。それともあまり熟していないのを使っていたのか。
日本で適当な洋梨が見つかるかどうかわかりません。今後の課題です。

ペッコリーノは塩気が強いので、グリーンサラダの塩味は控えめに。
それと、以前「サラダ・ドレッシングとサンドイッチのお話」でも書きましたが、酢油ドレッシングの酢を控えめにした方がおいしいです。




もうひとつは「ジョーおじさんのお気に入り」Uncle Joe's Favoritesというイギリス土産の洋梨キャンディー。

ジョーおじさんの顔がなかなか味がある。
中身はきれいな色の洋梨型のキャンディー。
洋梨の自然な香りと味がしっかりあります。

かなり気に入りました。
フィッシャーマンズ・フレンドといい、これといい、イギリスのキャンディーはわたし好みのものが多い。

洋梨二題でした。

2012年10月12日金曜日

明太子のスパゲティ


和風スパゲティの定番。今宵も日本のあちこちで数千人の独身の男たちがこれを作っている気がします(なぜか独身男が作るパスタだというイメージがある)

しかーし!!!
このパスタを作ったあなた、食べたときに胸がつまる感じがしませんか?
「水を飲まないとちょっと苦しいぜ」という感じ。
しなければ別にいいんですけど、あるときわたしは「胸がつまる感じがしない」作り方に気づきました。

いや、なんということはないパスタ作りの基本なんですが。

わたしの明太子スパゲティを紹介します。
参考になれば幸いです。


明太子のスパゲティの作り方(2人分)

《材料》
パスタ (1.6mm)  200g

明太子      2〜3腹
海苔       1/2帖
青ネギ      適量
梅肉       1個分(もしくはレモン少々)

グレープシード・オイルとバター  適量(同量)
塩        適量(食卓塩ではなく、おいしい塩を使う)
日本酒      大さじ1.5(上質の純米酒が望ましい)
醤油       少々


【1 材料を切る】
・青ネギは小口切り。梅肉は包丁で細かく叩く。海苔はハサミで刻んでおく。

・明太子は包丁で縦に切れ目を入れておく。

【2 パスタを茹でる】
・多めの塩を入れた湯でパスタを茹ではじめる。袋に指定された時間より1分短く。



【3 ソースを作る(1)】
フライパンに明太子を指でしごくように入れる(皮を入れないということです)。日本酒と叩いた梅肉(ゆず胡椒小匙半分でもよい)を加え混ぜる。
・グレープシード・オイル、バターを入れて火をつける。このパスタはオリーブオイルを使いません。明太子との相性が良くないので。
パスタを投入するまでやや弱火です。明太子に火が通ったらいったん火を止める。


【4 ソースを作る (2)】
・パスタが茹で上がる1分前にふたたび火を入れ、パスタの茹で汁をお玉で一杯を入れる。これが胸がつまるのを防ぎます。ツルツルと喉に入るパスタになる。フライパンを揺すって油と湯分をなじませる。
・塩ですばやく味つけ。やや強めの味つけでいいと思います。

【5 パスタをソースであえる】
茹で上がったパスタをしっかり湯切りして、ソースに投入。強火にする。
フライパンをあおる。またはトングでパスタをつかんで激しくかき混ぜる
ソースをしっかりパスタに食い込ませるためです。この間にパスタが程よい固さになります。

【6 皿に盛る】
皿に盛ったら、醤油を散らすように振る。あくまで控えめ。味つけは塩です。醤油は香り付けくらいがよい。青ネギと海苔を散らして完成。レモンを使う場合はこの時に数滴絞る。


・わたしはときどき下品に食べたくなって、生卵の黄身+白身少々(白身を全部取ってしまわずに気持ちだけ残す感じ)を皿に入れて潰し、その上にパスタを放り込みます。その場合は醤油をやや多めに。

2012年10月10日水曜日

『相棒』Season11開始

2ヶ月以上更新しておりませんでした。
8月はネットがつながらない環境にこもっていたので。それ以降は多忙と疲労。
『相棒』Season 11 始まったので、短いけど更新しておくことにします。


(ネタばれ注意!!)


脚本イマイチ。
殺人のプロットに致命的な穴が二つある。

新相棒、甲斐享君が刑事になって最初に解決する事件の犯人(実行犯ではないけど)が自分のお母さんだ、というアイロニーにはちょっと感心した。

あからさまには描かれなかったけど、繰り返されるキーワード「偶然」がそれを伝えてました。

でも、「その事実を知ったことで甲斐君が右京さんに別れを告げて相棒解消」という展開になるんだったらあまりに紋切り型でつまらんな。次回以降に期待。