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2021年3月3日水曜日

「選ばれし者」——『相棒』Season19

(ネタバレあり。注意)

法が裁けない悪人に旧式拳銃デュークを手にした者たちが「選ばれし者」として鉄槌を下すという、ベストセラー小説『魔銃録』。
その模倣犯と思われる男が悪徳代議士をデュークで射撃した。
押収されたデュークは科学警察研究所 (科警研) に保管されている。

ところが。
今度は『魔銃録』の著者・笠松剛史が射殺され、
その銃弾の線状痕が押収されたデュークと同じもの。
そう鑑定したのは科警研の研究員・黒岩雄一。

押収されたデュークがなぜ、どのように殺人事件に使用されたのか?

その謎を解明すべく右京と亘が動き出す。

そういうストーリーでした。

ストーリーの枠組みはおもしろい。
わたしは惹きつけられました。
謎解きもそれほど破綻はなかったと思う。



だけれども。

推理ドラマとして疑問点が三つあります。

一つ目は。
犯人は科警研の研究員・久保塚雅美なんですが、
(「ネタバレあり。注意」と書きましたが、これだけ登場人物が少ないと早い段階で彼女が犯人だということはわかる)
押収されたデュークの銃身だけを持ち出して笠松を射殺した。

でもですね。
科警研の入退場チェックは非常に厳しいものだと強調されている。
それだけきびしい荷物チェックは目視だけなの?
雅美は銃身を持ち出し、持ち帰っている。
金属探知機はないのかい。

二つ目は。
科警研の研究員黒岩雄一は銃鑑定のプロ中のプロです。
その彼が、押収された銃が笠松殺害に使用されたと気づくのは、
右京と亘の「ガンオイルの匂いがした」という指摘を聞いたときです。
わたしは銃についてたいした知識はありませんが、
押収後に弾丸が発射されたことはガンオイルなんかじゃなくても専門家なら一目瞭然にわかるんじゃないでしょうか?
使用されたのが銃身だけだったとしてもです。


一つ目と二つ目は技術的な問題点なんですが、
三つ目はドラマとして最大の問題です。

犯人久保塚雅美の動機と人物造形。

久保塚は、銃を手にしたとき人はどういう行動をとるのか、という研究をしていて、
その (当然極秘の) アンケート調査を作家笠松に渡した。
笠松はその資料をもとに『魔銃録』を書き、
模倣犯が出てきたわけですが。

模倣犯の登場にびびった笠松は、警察にこれまでの経緯を告げるべきだと久保塚に言い、
久保塚は「研究を途中でやめるわけにはいかないのよ!」
と言って笠松を射殺した。

だけれども。
久保塚の研究の動機は、アメリカ留学中に銃を持った少年に脅された体験。
そこから銃を持った人間がどう行動するかに関心をもったわけです。

その研究の調査から、久保塚は代議士銃撃犯を選び、彼にデュークを渡した。
未遂に終わった第2の銃撃犯もそうです。

二人の犯人は『魔銃録』に影響されている。
「選ばれし者」として悪人に鉄槌を下そうとした。

これ、久保塚の研究とかけ離れています。
久保塚は銃を手にした「ふつうの」人間がどう行動するかを研究しているんじゃなかったのか?
アメリカで久保塚に銃を突きつけたのは金目当ての悪ガキだった。
「選ばれし者」とはほど遠い。
「選ばれし者」の意識をもった二人の犯人を選抜した時点で、
久保塚は研究者として破綻してます。

要するに、
久保塚の研究動機と犯罪動機の関係が曖昧で、
ということは、久保塚の人物造形が曖昧だということです。
これ、かなり致命的だなと思います。

補足すれば、
銃撃された体験を持つ出雲麗音をせっかく出して犯人を説得させたのに、
銃撃についての禮音の立場と久保塚の立場をどうぶつけようとしているか意図不明でした。

ストーリーの設定と枠組みはよし。
でも突き詰めがない。


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