2015年2月20日金曜日
マラドーナと間違えられた男のお話
イタリアでマラドーナと間違えられた後輩の話は「タコの溺れ煮パスタ」に書きました。
かりにK君としておきます。
K君は浅草生まれの浅草育ち。生粋の江戸っ子です。
べらんめえだけどその語り口がほれぼれするくらいみごとで、わたしは彼と出会って生まれてはじめて伝統的な日本語の美しさをライブで感じることができました。
なんだけれど、
マラドーナに間違えられるくらいラテンっぽい風体です。
背は低い。
でも胸板が厚くて、その胸板の上に太い首がのっかっている。
ラテン男の体型です。
彼ほどじゃないけど、
わたしもヨーロッパで「日本人か?」と聞かれたことが少ない。
大学の研修旅行で学生をヨーロッパに引率していったとき、
ローマのスペイン階段にすわってタバコを吸ってたのですが、
すぐそばにいる添乗員と学生が「歩きのオス先生がいない!」と騒いでいる。
「ここにいますよ」
と言うと、みんなうわっと驚いて
「あまりに周りの景色に溶け込んでいてわからなかった!」
と言いました。
そんな共通点があるからなのか、K君とはいろんな思い出があります。
ロンドンのソーホーで二人で小さな中華料理屋に入った。
店員はもちろん全員中国人。
二人でいろんなものを頼んで食べながらおしゃべりした。
おいしい店でした。
ウェイトレスがとてもキュートだった。
1時間ばかりたったとき、そのキュートなウェイトレスが寄ってきて、
「すみません。あなたたちは日本人ですか?」
と尋ねた。
「そうだ」と答えると、彼女はパッと顔を輝かせて手を打った。
奥の厨房のみんなが「くそーーー!」みたいな仕草をしてた。
みんな中国人だと言って、彼女だけが「日本人だ」と主張し、賭をしたそうです。
彼女はずるをしてた。
だってわたしたちが日本語で話をしてるのを聞いてたんだから。
それから。
やはりロンドンのソーホーのタイ料理屋にはいったとき、
二人で前菜から主菜まで10数品を注文しました。
ウェイトレスは
「たぶんあなたたちは注文しすぎてると思う。多すぎます」
と忠告してくれた。
わたしは
「大丈夫だ。わたしたちはふつうの日本人ではない」
と答えました。
テーブルにあふれんばかりのおいしいタイ料理を二人で次から次に平らげました。
デザートも追加しました。
いやーー、あの頃はほんとに食べられた。
ヨーロッパのレストランで「量が多すぎる」と思ったことは一度もなかった。
K君も大食漢だった。
わたしは「小食のグルメ」を信用しません。
『ガルガンチュア物語』みたいに、
がつがつグワーーーっと食べてこそ食物のおいしさがわかるんだと思う。
生きるものを殺戮して摂取する人間の業(ごう)と隣り合ってこその食文化。
わたしは量は食べたけれどグルメだと思ったことは一度もない。
胃が小さくなった今はなおさらです。
でも食べることと食べるものを作ることは大好きです。
飲むことも。
K君とは食べて飲むことをほんとに共有した。
K君、音信不通です。
わたしの仲間のだれも消息をしらない。
生きているか? 元気でいるか?
またいっしょにソーホーに行こうよ。
g+1に登録したらなぜか「お勧めする」のカウントがついてしまいました。みっともない。消去の仕方がわからないのでそのままです。自画自賛ではありません。
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