「ラ・キュヴェ・ミティーク 2012」(La Cuvée Mythique 2012)。
イトーヨーカ堂とかによく置いてあります。
クイズ。
これを思わず買ってしまうのはどんな人でしょう?
答え。
西洋古典学をやってる人間。
えーーーっとですね、
西洋古典学というのは、古代ギリシア・ローマの文学・哲学・歴史・美術史・考古学を総称する学問分野、英語では classics と言います。(日本にも「日本西洋古典学会」があって活発に活動しています)
そう、日本では古事記や枕草子などの「古典」と区別するために「西洋」をくっつけているのですが、欧米では単に「古典学」classics と言います。「古典」と言えば古代ギリシア・ローマのものを指すのです。西洋ではシェークスピアもダンテも「古典」ではありません。ギリシアやローマの古典を継承する新参者の扱いです。知ってた?
古代ギリシア語やラテン語のテキストを読んでいる西洋古典学者たちは、
なぜラ・キュヴェ・ミティークをふらふらと買ってしまうのか?
ラベルの梟なんですね。
フランスに「 ビュデ叢書」というものがあります。
古代ギリシア・ローマのテキストが右ページに、
そのフランス語訳が左ページに印刷してある対訳です。
その「ビュデ叢書」の表紙が
アテナ女神の聖なる鳥とされている梟。
ワインのラベルと同じデザインなのです。
西洋古典学をやっている人間ならビュデ叢書にお世話になっている。
だからこのワインを見るとつい買ってしまう(のではないかと想像します)。
シラーその他数種類の葡萄のブレンド。
配合のバランスはなかなかで、香りにもそのバランスの良さが出てます。
安ワインなのでしっかりボディーを期待してはいけません。
それに負けないどっしりボディーのスペインワイン「ボデガス・ブレカ・ブレカ」を開けました。高級ワインじゃないけど迫力満点。
その直後なので、梟君の味は影が薄くなってしまう。
でも悪くない赤です。
ビーフやラムには負けてしまうから、
牡蠣フライとか七面鳥とかピッツァには合うかもしれない。
アテナ女神はローマ神話ではミネルウァ。
綴りは Minerva で、ラテン語では「ミネルヴァ」ではなく「ミネルウァ」です。
かの大哲学者ヘーゲルは『法哲学』の最後の方に
「ミネルウァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ」と書いています。
女神アテナ(ミネルウァ)は知恵の女神ですからその梟は哲学。
過去をふり返ったときに生まれ出る省察が哲学である、
というのがわたしの理解なのですが、ヘーゲル学者さん、ちがっていたらご教示願います。
ラ・キュヴェ・ミティークを飲みながらヘーゲルの『法哲学』を読むのはしんどいな。
でも。
ホメロス『オデュッセイア』(松平千秋訳、岩波文庫上下2巻)
を読んでみてはいかがでしょう。
人間を豚に変身させるキュートな魔女キルケー、
一つ目巨人キュクロープスの洞窟から脱出するオデュッセウスの機知。
そしてテーレマコスに助言するメントールなる人物に変身してあらわれるアテナ女神!
(「師」に当たる英語メンター mentor の語源はこのメントールです)
やがてグラスの中のラ・キュヴェ・ミティークが、
ホメロスの「葡萄酒色の海」に見えてくるはずです。
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