2013年12月7日土曜日

ワン・フレーズ・ポリティクス


特定秘密保護法が成立するというとんでもない事態になりました。歴史に残る悪法の成立です。

国防に関する機密情報を保持することは喫緊の課題だ、 
阿倍はそう言います。 

機密にすべき(とりわけ軍事情報に関する)国家情報があるのは理解できる。 
しかし、日本の歴史をふりかえったとき、決定的に欠けているのは 
「国家」や「軍隊」がそもそも何のためにあるのか、という問いだと思います。
ある情報を機密にしたことの正当性は、その機密が国益になるということでしょう。
国益とはもちろん「国民の益」です。

軍事機密が「軍の益」「政府の益」ではあるが、「国民の益」ではない、
という事態はありうる。
それをチェックできるのは第三者機関しかないのに、名ばかりで官僚と政府「当事者によるチェック機関」 (?)を置くだけの「政府・官僚益」の法が、特定秘密保護法です。



軍の意義を主張する人たちの中に、

「日本は平和ぼけをしている。突然、(たとえば)中国だとかが日本に攻めてきたらどうするんだ?」 

というようなことを言う人がいます。 



それこそファンタジー(おとぎ話)です。 

もし、ある日突然、外国の軍隊が日本に攻め寄せてくる事態が生じたとします。 


そんな事態が起きたとすれば、原因はひとつしかない。 
日本の政府が国民に対して「ある外国が日本に攻めてくる状態にある」 
という情報を隠していた、
そして、そういうどうしようもない状態にいたるまでの外交の失態を隠していた、ということしかありません。


政府が、突然外国軍が攻めてきたことに驚くという事態はあり得ません。 
外務省を馬鹿にしてはいけない。 それなりの情報収集をしている。 

「ある日突然、外国軍が日本に侵略してくる」 
という事態が起こるとすると、 
それは政府が国民に情報を隠していた、ということしかあり得ないのです。 


だから、そういう事態が起きたとすれば、わたしは知恵を総動員して、侵略してきた外国軍にできる限り抵抗しようとは思いますが、 
それと同時に、 
日本政府に対して、外国軍に対するのと同じレベルの憤りを覚えると思います。 

「きさまら、よくも情報を隠していたな!」 と。 

これは民主主義国家では起こりえないおとぎ話です。
しかし、特定秘密保護法によって、おとぎ話が現実に起こる可能性が出てきます。




「平和ぼけ」ということばは単純でわかりやすく見えます。 

でもね。 
世の中には、簡単には理解してはいけないことがある。 
「わかりやすい」ことばが通用しないことがある。 


政治はそういうもののひとつです。 


昔、ある大学で、 
ギリシアの弁論術の意味をアリストテレスを材料に講義していたとき、 
一人の学生が手を上げて質問してきました。 


「先生、そんなややこしい説明はいいから、要するに、アリストテレスは何を言いたかったんですか?  一言で言って下さい」 


勇敢な学生です。100人を超える授業で手を上げて質問してきたのですから。 
でもわたしはこう答えました。 


「君は今、『一言で言って下さい』と言いました。 
君はひょっとして『一言で言うこと』が『長々と説明すること』よりいいと思っているのではないですか?
でも、世の中には『一言』で言ってはいけないことがあるのですよ。 
大学の授業がなぜ90分あるか考えたことがありますか? 
90分かけてことばを費やして、それでもわからないことがあるからですよ。 
それを『要するにぶち割って言えばどういうことなんだよ』 
というのは、知的なものを否定しているということではないのですか。 
世の中にはひとことで片付けていいことと、いけないことがある。 
大学はひとことで片付けられないことを扱う場所なのです」 

というよーなことを言いました。 


今でもまちがっているとは思いません。 
「ぶちわって言うひとこと」
は気持ちいい。すっきりします。 

しかし、政治や経済はすっきりしてはいけない。 
それくらい複雑なものなのだから。 

ヘイト・スピーチをしている人たちは、要するに 
「ひとことで言う快楽」 
におぼれているだけだと思います。ものを考えていない。 

在日朝鮮人の問題は政治の問題です。 
政治だから複雑に考えなければならない。 

そもそもなんで在日朝鮮人が日本にいるのか? 
その歴史を知らなければならない。 
在日朝鮮人の中に北朝鮮のスパイはいるでしょう。当たり前です。 

それと「全員がスパイだ」ということとは別の話でしょう。 
それにおそらくもっと多くのアメリカ合衆国のスパイもいるはずです。
アメリカ政府が特定秘密保護法を歓迎するのも当然の話。

韓国や中国の反日の動きが報道されますが、
これだって政治なんだから複雑に考えなければならない。 
ひとことで片づけてはいけない。 

なんで中国が今、日本に強硬な態度をとりはじめたのか。 
内政の不穏があるから。政治を知っていれば当たり前の事態です。 

自国の対日本への態度変化を憂いている中国人や韓国人はたくさんいる。
対外政治を考える時の「いろは」は、
「国家」と「国民」は違うし距離がある、ということです。 
わたしは日本を愛しているけれど、今の日本政府を愛していない。 
中国政府や韓国政府と同じくらいの距離があります。 

わたしたち国民に「情報を与えないぞ」という態度を鮮明にしているからです。 
何のための政府か? 政府とは国民のためにあるものなのではないのか? 

オスプレイの配備や、
仮想敵国のミサイルが日本のどの原発に標的を定めているか、 
そして、官僚の若杉烈が『原発ホワイトアウト』 で告発したような、
原発産業と政府が結託した闇の談合構造の解明も、 
できなくなる可能性がある。 


特定秘密保護法はそういうものです。 
第2次世界大戦前の日本と同じような状況になりつつあります。 
(多くの人が指摘してることですが) 


政治を「わかりやすい気持ちのいいことば」で理解してはいけない。 
結論は人それぞれでいい。 いろんな政治的立場があっていい。

でも、どんな政治的立場に立つにしろ、政治をワン・フレーズで言い表してはいけない。
自分の気持ちよさで政治を語ってはいけません。 
政治は、多くの情報と知恵をふりしぼって理解すべきものだと思います。

その情報が、官僚と政府の独断によって国民に閉ざされようとしています。
その責任が自民党を選挙で圧倒的多数に選んだ国民にあることは言うまでもないことですが。


2 件のコメント:

  1. 拝読させていただきました。
    非常に読んでいて面白かったです。
    複雑なテーマであってもわかりやすく、かつ論理的に書いてありイメージとして入ってくる。
    嗚呼、先生の様な知的な思考ができるようになりたい。

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  2. いや、自分の中でもまだ論理がじゅうぶんに整理されていないのです。でも事態のあまりのひどさにたとえ読者が少数でも書いておかなければ、と思って走り書きした次第です。コメントありがとうございます。

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