2020年11月11日水曜日

家の呪縛——『相棒』Season19 天上の棲家

 (ネタバレあり。注意

今日の「天井の棲家」を見て、唐突かもしれませんが、
若い頃、妻の実家に行って妻の父親に結婚の許可をもらおうとしたときのことを思い出しました。

緊張しながら「娘の○○さんをいただきたいのです」と言ったわたしに、父親が言ったことばが
すごかった。

「その言い方は気に入らない。結婚というのは両性の合意で成立するものだから、
あげるもらうとか親が許可するしないの問題ではない。娘が『この人と結婚したい』と言ったとき、親は許可などできない。ただ祝福するだけだと思っています」

感動で胸が震えました。
この人は「家」から完全に自由な人なのだ、「個人」を何よりも優先すべきなのだ、
そういう思想を体で生きてきた人なのだ。
そう思いました。

そして義父の思想は日本国憲法に強く支えられていたのだな、とあとになってわかりました。
憲法第二十四条第一項
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない

ようするに、日本国憲法は「家と家との結婚」を否定している
すばらしいと思う。
以来、ホテルとかで「○○家△△家結婚披露宴」という張り紙を見るたびに
「あ、これ憲法違反だよね」と思うようになりました。

もちろん、地方の名家なんかでそういう「家」の存続が至上命令であるような事情はわかるつもりです(わたしは田舎出身なので)。

けれどもそれはその家の事情にすぎない。人に強要すべきではない。
嫁に家の墓守を当然のようにように要求するのはどうかと思う。
だからそういう家に嫁入りしたくない女性がいるのはよくわかる。
やだよね。

地方の男性に嫁の来手がみつかりにくいのはよくわかる。
結婚相手を見つけたければ、家を背負わない裸一貫の魅力で勝負するしかない
(「婚姻は両性の合意にのみにおいて成立し」ですね)。
結婚という家族の形態自体が選択肢のひとつでしかなく、
統計上の事実としてももはや少数派である現代においてはなおさら、
そう覚悟しなければ嫁さん見つかりにくいと思う。

別のことばで言うと
「家の呪縛」から自由にならないと嫁さん見つけにくいよ、ということ。


今日の『相棒』、まさに「家の呪縛」がテーマ。

地方ではなく、東京の政治家の名家、白河家なんだけれど。
藤眞奈美演じる貴代はそいういう「家の呪縛」から殺人を犯す。

ストーリーの骨格は森友学園事件なんだと思います。
しかしそれを「家の呪縛」の事件として描いた。

では白河家の「家の呪縛」は貴代の逮捕で終わるのか?

殺された衆議院議員、白河達也の妻は呪縛されたままだと思う。
白河家の呪縛は続くということだと思う。

でも、二代続けて収賄事件が明らかになってしまった白河家に、
政治家の家として存続は困難でしょう。
白河家の未来は危うい。しかし、白河家のなかで「家の呪縛」から自由になれそうな人物がいます。
白河達也の長男。
この子、なかなかいい。

最後の場面(台詞はないのだけれど)
母親は名家に呪縛されたままなんだろうなー、とわかるのですが、
長男がどうなのか曖昧だと思います。
「またもや白河家の呪縛を引き継ぐ子」ともとれるし、
それまでの登場シーンからすると「呪縛から解放された白河家の政治家」になる可能性もありうる。

その辺の曖昧さが不満。
長男をもっと描いてくれよ。

この子を描くと「家の呪縛」と「呪縛からの自由」のドラマになり得たと思います。

「家の呪縛」とそれに対する右京の憤りに終わってしまったな。



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