2020年11月28日土曜日

新顔と深まる謎——日本酒の話 その2

 
「日本酒の話」は、6年以上前に気楽に書いたっきり、ほったらかしにしてたのですが
予想外にアクセスがあります。

ほったらかしにしていたのは、
「日本酒の話」を書いた頃からしばらく心身ともに万全ではなくて、
数年間、自分のブログをろくに見ていなかったこともあります。

数ヶ月前にようやく復調の兆しが見えて再開しました。
そしたらほったらかし期間にも見てくださった人がいたことがわかりました。
ありがたい。
だけじゃなくて申し訳ない。
休んでいたあいだに Blogger のインターフェイスが変わったせいか、
「2014・夏ギリシア」に寄せてくれた7人の方のコメントを読めない。
(ので遅ればせの応答もできない)

中断期間の負債みたいなものを返したい気持ちもあって、
再開後は (遅筆のわたしとしては) できるだけ投稿しています。



「日本酒の話」についてですが。
日本酒についてのわたしの基本的な姿勢と具体的な銘柄の紹介をしました。

そこに書いた基本姿勢は今も変わりません。

    1) 純米酒しか飲まない。
    2) 酒米を磨きに磨いた大吟醸は、杜氏の腕の差が出ないし、
    日本酒本来の味の奥行きがないので飲まない。精米歩合 55~60% くらいの酒が
    いちばんおいしいと思う。
    3) 冷やした酒は銘柄ごとの味の個性がわからないので、最低常温で飲む。

それぞれについてもちろんもっと説明しましたが、
日本酒好きなら納得してもらえるだろう、ごく当たり前の基本姿勢です。

とは言え、6年以上前の話。
ここ3, 4年は日本酒より、ワイン、シングルモルトウィスキー、ラムを飲む方が多かったこともあります。その間も日本酒飲んでたけど以前ほどではなかった。
 (多いときは月10升飲んでたからなー)。

この半年くらいでまた日本酒に回帰したので更新する気になりました。
(ちなみに、ワインやウィスキーと較べると確実に日本酒は太りますね)


I. 補足

まずは前回の補足をいくつか。

「天の戸醇辛」は米の雑味を旨みに変えたうまい酒だ、と書きました。
相変わらずの定番種のひとつなんですが、
あらためて気合いを入れて飲んでわかったことがあります。
開けたてはいろんな味の要素がくっきり (別のことばで言うと喧嘩) している。
でも2,3日経つとそれが一体化してすばらしい奥行きになる。


「雑味を旨みに変えた」点で似ているのが、前回触れなかった岡山県の
「竹林ふかまり」
実はこの酒、日本酒を飲み始めた頃に何度か飲んでいるのですが、
30年くらい前の自分の記録を読み返すとこの酒の良さがわかってなかったと思います。
評価が高くない。
でも今飲むとすばらしい。
もう開けたてから味の一体感があります。濃醇かつ角がない。最初から渾然一体。
そこが「天の戸醇辛」との違い。
逆に、角がないから強烈なアッピールがないと感じる人もいると思います。それがメジャーじゃない理由なんでしょうが、この酒はほんとにうまい。
「天の戸醇辛」「竹林ふかまり」どっちも好きです。

ちなみに「竹林」にはもっと精米した (=値段の高い) ものもありますが、そっちは吟醸香があるのでわたしの好みは「ふかまり」です。
ここの酒蔵の社長、「うちの酒は100°Cでも大丈夫です」と豪語しているそう。
さすがにそこまで暖めたことないですが、熱燗でまったくへこたれない、どころかうまさが際立つ。鍋には最高ですね。

もひとつ補足。

新潟の酒は好みでない。だけれど、「越乃白雪」は、開栓したては水みたいなしょうもない酒だったけど、開栓して1ヶ月以上流しの下にほったらかしにしていたら「すーーーーんばらしい味」に変貌していたと書きました。あれは「特別純米」です。

数年前に新潟出身の先生が退職する際、
「歩きのオス先生、お好きな新潟の酒があればさし上げたいです」
と言ってくださった、ので迷わず「越乃白雪」と言ったら
なんと!
「純米大吟醸」をいただいた。
すでに書いたように、わたしは「純米大吟醸」を飲みません。米を削りすぎてボディーがないことが多いからです。
でも「越乃白雪純米大吟醸」は開けたてからすばらしく濃醇なボディーがありました。
開けたての「特別純米」の「水みたいなきれいさ (わたしの中ではマイナス評価のことばです)」が微塵もない。
どーしてなの??
何年も飲んでないのですが、いつかもう一度「特別純米」を飲んで確かめたいと思ってます。
日本酒、奥が深いです。


II. 新顔


ガツンと響いた新顔たちです。

新顔1番目は岡山県の「宙狐 (ちゅうこ)」。

「純米原酒」をネットで取り寄せてしびれました。
濃醇で角がなくうまい!!

と思ってたら、いい居酒屋に置かれるようになった。
そしてあっという間に手に入らなくなった。

残念だと感じると同時に、
「いやー、旨さって共有できるもんなんだな」とも思いました。
「山廃純米」はなんとか手に入るのでこれを飲んでます。
これもうまい。
山廃の香りは強くありません。千歳飴のような米っぽさ、苦み、酸味が渾然一体。
ボディーがしっかりあるので料理と飲むとよけいにすばらしい。



次は最近評判がいいので買ってみた千葉県の「不動」
どれにしようか迷って「ひやおろし酒こまち純米吟醸生詰め原酒」に。
うまい!!
香りが面白い。
パイナップルみたいな立ち香 (鼻でわかる香りです)・含み香 (ゴクリと飲んだときに鼻に抜ける香りです)が、いきなりではなく「遅れて立ち上がってくる」感じ。そこが面白い。濃醇だけれどバランスが良い。

「不動」の香りは「吟醸香」に分類されるんだと思います。
わたしはどちらかというと吟醸香が強い酒は好きではない。
しかし「不動」を飲んで吟醸香の認識がちょっと変わりました。

吟醸香があってもボディーがしっかりしていれば気にならない、
ときにはお互いの相乗効果でいっそううまくなる。

米を削って評判の「獺祭 (だっさい)が苦手なのは、吟醸香の強さもさることながら、
ボディーがないので (ま、「きれいな酒質」と言う人もいると思いますが) 香りのくどさが際立つからです。わたしにとっては「臭くてたまらん酒」。料理といっしょに飲むとよけいにくどい。
(付言しておくと。「獺祭」の「磨き二割三分」をいただいて飲んだことがあります。米を77%削ってる! ここまで削るとさすがに吟醸香も出ないようです。でもなんで高い金を出してこんな水みたいな酒を飲まにゃーならんのかと思いました。いただいた方には申し訳ないですが)

でも「不動」は違う。
わたしの苦手なマスカットみたいな吟醸香ではなくて、パイナップルみたいな香りだということもあるんだけど、しっかりしたボディーと吟醸香がタッグを組んでいる。
だから中華料理と飲んでもまったく違和感がありません。
ただし原酒で17°あるのでけっこうまわります。
「不動」のほかの銘柄も飲んでみたい。

そして新顔3番目は群馬県の「土田」
菩提酛×山廃酛

個性的な酒を造る酒蔵です。
最初に飲んだのが「菩提酛×山廃酛」。
変わった作り方のようです。ヨーグルトのような柔らかな酸味。うまい。

でも、土田でいっそうのお気に入りは
「イニシャルRスペックII 生酛純米酒」
名前からして個性的。
蔵に住みついた酵母を選抜して生酛作りをしているのですが、
精米歩合がなんと 90%!!
「獺祭」と真逆の道を行く堂々たる酒だと思いました。

裏ラベルに「常温保存必須」とあるのがいい。
ワインほどではありませんが、日本酒も時間経過で味が変わる。
わたしは数種を一升瓶で買って、それぞれ1〜2ヶ月、ときには3ヶ月かけて味の変化を楽しみます。
「冷蔵保存」と書いてある一回火入れの「ひやおろし」(秋あがり)も床下で常温保存です。
それでへこたれるような酒はだめな酒だと思ってます。
「土田」は自信があるんですね。
イニシャルRスペックII

はっきりわかるバナナの吟醸香。それにハッカもあるのかな。
そういういい香りが余韻にもふわーーーっと続きます。
「菩提酛×山廃酛」ほど強くはないが、柔らかな酸味がすばらしい。
料理を引き立てます。
まだ合わせていませんが、中華の茹で豚の料理、白片肉 (茹で豚肉の甘味噌)とか回鍋肉 (ホイコーロー) にも合いそう。


新顔最後は奈良の「百楽門 備前雄町純米大吟醸」
「大吟醸」なんですが精米歩合50%なのでわたしの許容範囲。
これも吟醸香があるのだけど、甘み・酸味などとのバランスが良く、料理の邪魔をしない。


たいした舌じゃないけれど、赤ワインのブドウ品種はけっこうわかります。
フランス出のブドウでは、カベルネ・ソーヴィニョンとかシラー(メルローはそんなに好きではない)、個性派のマルベック。
スペインのテンプラニーリョ、ガルナッチャ、モナステリオ。
イタリアはブドウのバリエーションが豊かでそれぞれ個性的。
有名なトスカーナのサン・ジョヴェーゼをはじめとして、
バラの香りがするマルケ州のラクリマ・デ・モッロ・ダルヴァとか、
プーリア州のネグロ・アマーロとかプリミティーヴォとか。

酒米はそこまでわかりません。
山田錦は全般に奥行きがある気はする。強力 (ごうりき)と亀の尾はどれもうまいのだけれど、米のせいなのか酒蔵の腕のせいなのか判断できない。
ブラインドで飲んだら当てる自信はまったくありません。

でも雄町はなんとなくわかる気がする。
わたしの舌では、ものすごく細やかな甘みがあります。

「百楽門」もそうです。雄町の甘みを生かしている。
「百楽門」と並べたのは「昇竜蓬莱きもと純米吟醸雄町」。
これはピンとこなかった。きもとのナッツのような香りと雄町の甘みがミスマッチで味がバラバラ。同じ酒米を使ってもずいぶん違うものです。


III. 深まる謎

新顔のコーナーに入れてもいいのですが、

愛媛の
ひめいちえ 無濾過純米吟醸夏越酒。うまいです。
開けたては味のそれぞれの要素がくっきり (だけど喧嘩はしてない)。
2,3 日すると渾然一体化します。

「日本酒の話」で同じ愛媛の「石鎚」について書いたことなのですが、
この「ひめいちえ」にもミカンの香りがします。
柑橘系の香りというのはまああります。でもそうじゃなくて「ミカンの香り」なんです。
「梅錦」もそうだった。

「愛媛県 日本酒 ミカン 香」とかで検索しても、
「愛媛県の酒はミカンの香りがする」という記事にヒットできませんでした (ミカンリキュールは作っているみたいですが)。
わたしの鼻がおかしいんだろうか?
でも何度飲んでも確かにミカンの香りがする。
以前は、道具にミカンの木を使ってるんだろうか、と書いたのですが謎です。
「ひめいちえ」でその謎がいっそう深まった。

もういちど書きますが、わたしの鼻、おかしいんでしょうか?





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