ミステリー評論家、翻訳家。小説も書いた。
翻訳の日本語がとても自然でみごとだった。
たくさんたくさん読んできましたが、
特に印象深いのは、
『マルタの鷹』 (完訳決定版) |
それからなんといってもトー・クン『女教師』『姉』『義母』3部作。
のちに文庫化されましたが、若い頃のわたしはフランス書院のハードカバー版を買ってノックアウトされました。
トー・クン『姉』 Kindle版 |
こんないやらしい小説がこの世にあるのかと思ったくらいのポルノ小説の名作ですが、今思うと、小鷹信光の日本語の力が大だったのではないかとも思います。
かといって、自分の文体をこれ見よがしに見せつける訳では決してなくて、控えめで誠実な訳文でした。
そして、
エッセイ『私のハードボイルド——固茹で玉子の戦後史 』(早川書房 2006)、
現代アメリカ文学に長年注ぎ込んできた時間とエネルギーの大きさを感じさせる労作です。
わたしたちや、それより上の世代は、
小鷹信光たちが翻訳した英米の小説にけっこう影響を受けていると思う。
ミステリー小説やハードボイルド小説の翻訳は、
海外旅行が今ほど身近ではなかった時代に、
英米の世界をのぞき見る窓だったし、
その読者であったわたしたちは、実はそれらの翻訳の文体にも影響を受けている。
若き日の村上春樹も、そういう文体の影響下に自分の文体を造っていったのだと
わたしは想像しています(村上春樹の場合、英語原文の文体の影響が大きいのは言わずもがなのことですが)。
小鷹信光の『赤い収穫』完訳決定版を読みたかった!
心からご冥福をお祈りいたします。
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