2014年4月28日月曜日

ブドウの葉のドルマデス

ドルマデス(ドルマダキア)はブドウの葉に米などの詰め物をしたギリシア料理です。

似たものは東地中海沿岸に広がっていて、トルコ語のドルマ(詰め物)が語源。
ブドウの葉だけでなく、キャベツや、くり抜いたズッキーニなどに包むものもトルコではドルマと呼ぶらしい。ロールキャベツの原型だという人もいます。
米を包んだドルマデスは、さしずめ「ギリシア風ちまき」といったところでしょうか。


詰め物に肉を入れたものは温菜で、ニンニクとキュウリを混ぜたヨーグルトソース「ザジキ」をかける。
肉を入れないのは冷菜で、卵とレモンのソースをかける。
それが基本なんだけど、店ごとに個性があっていろいろ。
どれもおいしかった。



いちばん思い出に残っているのは20年以上前にクレタ島の港町レシムノンで食べた肉なしドルマデス。

レシムノンはベネチア共和国やイスラム帝国の史跡が残る異文化混交の地です。
曲がりくねった狭い道が続く旧市街の町並みはほんとに美しい。

わたしが泊まった旧市街の安宿の隣の部屋には、頬髭を生やしたいかにもラテン系の色男といったブラジル人と、ちょっと疲れた感じの年増の色っぽいフランス女性のカップルが宿泊していました。
濃厚なカップルという感じで、夜はそれなりに騒々しい声を立てていたし、宿の中庭のテーブルでもイチャイチャしてた。

暑さが少し和らいだ午後に海辺に散歩に出ると、
埠頭の先端にそのブラジル人の色男が一人で立って、港を出て行く大きな客船を見つめていました。

フランス女性は翌日も一緒だったから、別れの船出というわけではなかったと思います。
でもその船を見つめる彼には思わずはっとするような孤独と悲しみのたたずまいがあって、
わたしは、宿で顔を合わせるたびに彼とくだらない世間話をしていたのですが、なぜか今は話しかけてはいけない気がしました。

どんな事情でブラジルを離れたのだろう、なぜクレタ島の港町に長逗留しているのだろう、なぜフランス人女性といっしょにいないのだろう、とついいろいろ想像してしまいました。

港町にはいろんな人間ドラマが渦巻いている気がします。


彼から離れなくては、と意味もなく思って浜辺に足を向けました。
海水浴場のタベルナ(食堂)の日よけの下のテーブルに腰を下ろしました。

キンキンに冷やしたドルマデス。
ウェイターに「何を飲むのがお勧めか」と尋ねると、
これまたキンキンに冷やしたロゼのワインを持ってきました。
ラベルに「ヘカベー」と書いてあります。

ヘカベーはトロイアの女王。
ギリシア軍に祖国を滅ぼされ、夫(王)プリアモスを殺され、娘とともにギリシアの奴隷に身を落とした悲劇の女性です。


目の前に海。
酔いが回るにつれ、ヘカベーと、孤高のブラジル色男と、目の前の美しい海辺が頭の中でゆっくり渦を巻いていきます。

店はすいていて、隣のテーブルに美人の女性二人がいるだけ。
やがて、ビキニの水着にパレオを巻いたその二人連れが話しかけてきた。
フランス人。でも英語ができた。

向こうもわたしも、がんばらずにのんびりしゃべりました。
外国語で「けだるく話す」というのははじめての経験でした。

話が少し途切れたのでワインのボトルを指さして
「ヘカベーを知っているか?」
と尋ねると、一人が
「知っている。ホメロスに出てくる悲しい女性だ」
と答えました。

夏の日が傾いて海の色が変わります。
驚くような紫色がかった色。
「見ろ。葡萄酒色の海だ」と思わず言うと、
女性は
「そうだ、美しい。ホメロスが言うとおりだ」
と答えました。

いちばん印象深いドルマデスの思い出です。


作りたいのですが、ブドウの葉が手に入らない。
ようやく「TIRAKITA」というネットの店でドルマ用の塩漬け瓶詰め(レバノン産)を見つけた!

記憶に残っている羊肉を使ったブドウの葉のドルマデスを、料理本やらいろんなサイトやらを参考に作ってみました。

最初は要領がわからず、「まあ食べられる」程度のでき。
なによりブドウの葉がちと固かった。

今回はその経験を踏まえていろいろ改良してみました。


どちらかというと前菜っぽいものなのに手間がかかります。
前回それがわかったので、今日はついでに主菜も作りました。
豚ロースの煮込み。ほんとはやや厚手のヒレ肉にしたかったのだが、近所のスーパーになかった。
ドルマデスを煮るときに底に肉をしくだけなのでよけいな手間はかかりません。


たくさん作っても少量作っても手間はたいして違わないので、
下の分量はドルマデス20数個分、前菜としては4~6人分でしょうか。



ブドウの葉のドルマデス(羊肉入り)の作り方


材料

【ザジキの材料】
プレーン・ヨーグルト   300g
ニンニク          1/2片
キュウリ          1/2本
ディル           適量
EVオリーブオイル    1~2滴


【ドルマデスの材料】
ブドウの葉         30枚くらい
米             1カップ弱

羊肩ロース薄切り      200g
タマネギ          1/2個
ディル、タイム、ミント   適量(お好みですがけっこう多くてよい)
干しぶどう            大さじ2
松の実           大さじ2
干しパイナップル         大さじ2(なくても可)
ニンニク          1/2片
白ワイン(または純米酒)  大さじ3
塩・胡椒

レモン           1/2個
オリーブオイル

ジャガイモ         2個
豚肩ロース(生姜焼き用)  5~7枚(ドルマデスといっしょに作るが別の料理)
ガラスープの素



【1. ザジキを作る】
ドルマデスを作り始める3時間くらい前からプレーン・ヨーグルトを水切りして、固めのザジキを作ります。「ザジキの作り方」を見て下さい。


【2. 材料を切る】
(1) ジャガイモは薄切り。タマネギ、ニンニク、香草類、干しぶどう、松の実、干しパイナップルはみじん切りにします。

干しパイナップルは、吉祥寺駅ビルの干し果実専門店で
「羊肉料理でミントの他に加える干し果実のアイデアはありますか?」
と尋ねたら、店員さんがしばらく考えて提案してくれました。
当たりだったと思いますが、なくてもかまいません。

香草は好みのものでいいのですが、ミントは必須。ディルとタイムはとても相性がよくてわたしはよく使います。タイムは茎の先から根元に向かってしごくようにすると葉だけがとれます。

(2) 羊の挽肉が手に入らなければ(わたしは手に入りません)、ジンギスカン用の肩ロース薄切りを冷凍しておいて、半解凍の時に包丁で刻んで挽肉にします。

【3. 詰め物を作る】
(1) フライパンに油をしかずに羊肉を焦がさないように煎って水気を飛ばします。

(2) 羊肉の水気が飛んでパラパラになったら、オリーブオイルを垂らしてニンニクを入れ、しばらくしたら白ワイン(または純米酒)を加える。

(4) アルコール分が飛んだら、タマネギ、香草類他、詰め物の材料と米を入れて炒め、塩胡椒で味をつける。米が半透明になったら詰め物の完成です。


【4. ブドウの葉で包む】
ガチガチに固めたブドウの葉巻
葉巻をていねいにほぐす
(1) 写真がブドウの葉の塩水漬け。どうやって詰めたんだ、と思うくらいみっしりと葉巻のように葉が詰めてあります。この瓶詰めの場合、葉巻2本で20数本できました。
(2) この葉巻がみごとなくらいに固めてある。両端を内側に巻き込んであって、これをほぐすのにけっこう苦労します。1枚ずつ取り外そうとすると破れる。初回にこれで失敗しました。外側の数枚を、葉先を見つけるたびにそーーーっと部分的にはがしていくと、両端の巻き込み部分がほぐれてうまくいきます。

(3) 葉を水洗いします。
大きいのや小さいのや、穴が空いたのやら切れ込みが大きいのやら、固いのやら(葉の色が濃い)柔らかいのやらいろいろです。
柔らかくて大きいのが当然包みやすい。できるだけそういうのを選んでつけ根の葉柄を切り取り、裏側(葉脈がある部分)を上にしてまな板に並べます。
小さいのやら穴が空いたのやらは捨てません。ちゃんと使い道があります。


大さじ1杯強を葉の手前に置く
(4) ペーパータオルで叩くようにして水気を取り、詰め物を巻いていきます。

ちゃんと包むけれど、しかし葉が重なりすぎないようにするのが第1のポイント。
そのためにはある程度詰め物の量を多くした方がいい。
ネットの記事では「少なめに」となっているけれど、ギリシアのドルマデスはそんなに小さくありませんでした。




両端を織り込み、向こう側に
クルクル巻いていきます
第2のポイントはきっちりと巻くこと。
「米が膨らんではじけるからゆるめに巻く」という記事もありますが、炒めていればそんなことはありません(生米のまま巻く人もいるようです)。ゆるく巻くと煮るときにかえって崩れてしまいます。

穴が空いているときは、柔らかそうだけど小さくて使えない葉をちぎり、葉の内側につぎあてをしてから巻きます。



【5. 鍋で煮る】
(1) 包んでいく途中で、どうしようもない葉を鍋底に広げ、その上にジャガイモをしきます。焦げ付きを防ぐためです(ジャガイモはあとで食べる)。その上に豚肉をしき、塩胡椒する。胡椒は粒の黒胡椒をペッパーミルで挽いた方がおいしい。ジャガイモが余っていたら適当に豚肉の上にしく。それからたっぷりとオリーブオイルをかけ回します。オリーブオイルが少ないと焦げ付きやすい。

(2) その上に巻き終わったドルマデスを外側から敷き詰めていきます。ほどけないように巻き終わりの部分を下にして置いて下さい。

(3) ひたひたに浸るまで水を注ぎ、ガラスープの素をふりかけ、レモンを搾る。わたしは1/2個にしましたが、葉を柔らかくするためにも1個使ってもいいかもしれません。熱を通すので酸味は飛びます。

クッキングシートを鍋の形に(正確じゃなくてかまいません)切って置き、その上に落としぶたを置いて火をつけます。ネットの記事では「上に皿をかぶせる」というのが多いのですが、わたしの経験では水気が飛ばずうまくいきませんでした。クッキングシートの方が葉も柔らかくなります。

(4) 水気がほぼなくなったら完成です。中火で45分が目安。
そうっと皿に移し、ザジキをかけていただきます。


底に敷いたジャガイモと豚肉は、粒マスタードをつけて食べるとおいしい。いちばん底のブドウの葉がジャガイモに張りついたりしますが、はがさなくたってかまいません。かえってブドウの風味があっておいしい。
おいしくできたっ!

イタリアの「アリアーニコ・ヴルトゥーレ・ピポリ」を開けました。
思い出の「ヘカベー」ではないけれど、まろやかな赤でドルマデスと合います。



2014年4月21日月曜日

ギリシアのヨーグルトとザジキ

はじめてギリシアに行ったとき、ヨーグルトと蜂蜜のおいしさにしびれました。
「今まで食べてたヨーグルトと蜂蜜は何だったんだ!?」
と思うくらいに濃厚。


森永「パルテノ」は、たぶん今のところ日本で唯一「ギリシアヨーグルト」を謳っているヨーグルトです。

添付の蜂蜜もふくめてそれなりにがんばっていると思います。「ギリシアヨーグルト」を世に知らしめた功績は称えたい。

でも十分に濃厚だけれど、ヨーグルト自体の味わいが物足りない、というのがわたしの感想。ギリシア直輸入のおいしいヨーグルトがノスティミアで買えます。食べ較べてみて下さい。森永がんばれ! 応援しているぞ。

ただどちらも少々お高い。いつも食べるわけにはいかない。
なのでわたしはふだん、ふつうのヨーグルトを水切りして濃厚なギリシア風にします。
これに蜂蜜をかけて食べたり、ザジキ(ジャジキ)というヨーグルトソースを作ります。



ザジキはギリシアだけでなく、たぶん東地中海沿岸に広がっているソースあるいはスープです。トルコでも「ジャジク」という名前だったし、ブルガリアにもある。さっぱりした味が肉料理にとてもよく合う。

トルコのベルガマ(ペルガモン)の簡素な焼き肉屋で食べた(というより飲んだ)ジャジクは、スープ仕立てのものでした。上質のオリーブオイルを1滴だけ上に浮かべた上品な味でした。

しかしバゲットのようなパンに塗ったり肉料理に合わせたりするには、トルコやブルガリア風のシャブシャブな奴ではダメで、しっかりと水切りをしたギリシア式の固いヨーグルトにしなければいけません。

以下はわたしなりの「ギリシア風ヨーグルト」と「ザジキ」の作り方です。


ザジキの作り方


【ヨーグルトを水切りする】


わたしは「ジャージーヨーグルト」か「恵(めぐみ)」を使うことが多い。わりに固めです。それを水切りする。

ネットで検索すると「細かいザルで一晩冷蔵庫で水切りをする」と書いてある記事が多いのですが、ずぼらなわたしは短時間で水切りしたくて、コーヒーフィルターを使います。

写真のようにフィルターペーパーに入れるだけ。
ドリップの形が重さのかかり具合に効果的なのか、3~4時間でけっこう水が切れます。
最後にフィルターペーパーが破れないようにそーーーーっと絞って器に移す。

ギリシア風ヨーグルトは完成。これに(できればギリシアの)蜂蜜をかけて食べるとおいしい。



【ニンニクとキュウリを加える】


この固いギリシア風ヨーグルトにニンニクとキュウリを加えて塩味をつけたものがザジキの基本です。

なのですが、ニンニクをすりおろすと匂いがけっこう強烈に残ります。
地中海で食べたザジキはもちろんニンニク風味でしたが、匂いはあまり残りませんでした。
ニンニクとキュウリをすりつぶす

写真のニンニクつぶし専用の乳鉢はギリシアのデルポイ(デルフィー)で買いました。
オリーブの木から作った手のひらサイズのものです。。
これですりつぶすと匂いがあまり残らない。不思議です。
ヨーグルト400gにニンニク半かけが目安。キュウリは好みで適当に。

この乳鉢は日本では手に入りにくいと思いますので、代用として
まな板の上ですりこぎでつぶすのがよろしいんじゃないかと思います。おろし金はお勧めしません。
ニンニクとキュウリをすりつぶしたあとで軽く水分を絞ってからヨーグルトに加えるのがポイントです。


これに塩味をつけ、上質のオリーブオイルをほんの少し加えたら基本のザジキの完成です。



【いろいろヴァリエーション】


基本のザジキに、焼きナスの皮をむいて裏ごしした(またはすりつぶした)のを加えるとそれだけで前菜になります。パンに塗ってもおいしい。


肉料理のソースにするときは、焼きナスではなくディルやミントの葉を刻んで加えます。
コリアンダーやクミンを使うと中東風になる。
香りが苦手な人はパセリや青じそでもいい。
塩麹に漬けた肉を焼いたのにこれを乗っけて食べると最高!





2014年4月14日月曜日

追悼:周富徳

周富徳が亡くなりました。

『すぐできるおいしい中華の家庭料理』(ブックマン社、1993)はよく使ってお世話になりました。
この本のとおりに作ると「町のふつうの中華料理屋さん」のおいしいレバニラ炒めがちゃんとできます。

テレビの花形だった頃「周富徳は町の大衆料理でほんとの高級料理は作れない」という内容の記事を何度か見かけたことがあります。実際の料理を食べたことがないし専門家ではないので正確な評価はできません。

それでもやはり、XO醤(エックスオージャン)と「エビのマヨネーズ炒め」を考案したのは功績じゃないかと思います。どちらもブランデーを使っているので、周さん、ブランデー好きだったのでしょう。そう言えば「ブランデー好き」ということばは死語になっていますね。周さんやそれより上の世代の「ちょいワルおやじ」はブランデー好きが多かった気がします。

「エビのマヨネーズ炒め」は近頃の中国料理店では珍しくないメニューだと思いますが、「エビとマヨネーズだけの味」という感じのものが多い。でも『すぐできるおいしい中華の家庭料理』に出ているレシピどおりに作ると、ブランデーの香り高い複雑な味になりました。周さんが作ったのを一度食べてみたかった。

それとこの人は手が早かった。
テレビで「エビのマヨネーズ炒め」を作るのを見てその猛スピードに唖然としました。
あの早業ももういちど見てみたい。



ひさしぶりに「エビのマヨネーズ炒め」を作りたくなりました。
ご冥福をお祈りします。

2014年4月10日木曜日

ストーリー・オブ・マイ・ライフ(補足その2)

「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」が続いて恐縮です。

先日、勤務先の大学のカラオケ大会がありまして、ひそかに「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」を猛練習して臨みました。英語がびっしりつまった難曲だということが身にしみてわかった。

なんと!
まだカラオケに入ってなかった!
エルトン・ジョンを歌ってお茶を濁したのが返す返すも残念。


でも自分で歌ってみるといろいろ発見があります。

the ground beneath my feet is open wide

the fire beneath my feet is burning bright

は、なんて美しい英語の音なんだ! と思いました。


それから

running after you is like chasing the clouds

のワン・ダイレクションの歌唱、特に chasing the clouds のところはすばらしいことがあらためてわかりました。せつない。



この曲が収められているアルバム『ミッドナイト・メモリーズ』も何度か聞いているうちに
『補足』で書いたことをあらためなくてはと思いました。
「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」以外の曲もかなりいい。
9曲目以降は粒ぞろいだなと思います。

歌うまいよ、ワン・ダイレクション。