4日間で90分授業を15コマというハードスケジュール。
準備していた講義は、ギリシア悲劇を裁判員へのリテラシー教育として読むとどうなるかというもの。聴き手のほとんどは英文科の大学院生で、優秀で熱意がある。で、サービスしたくなって、映画『ロード・オブ・ザ・リング』やコールド・プレイの『Viva la Vida』の文化背景など、予定外の脇道にも力が入ってしまった。
でも今日書きたいのは講義の話じゃありません。
福岡のバーの話から。
ホテルに泊まらず、実家から大学に通いました。
実家はダウンタウンの天神から徒歩15分のところにあります。
昔は庶民的な商店と住宅があるだけの土地。
今はおしゃれなレストランや居酒屋がならぶモダンな地域になっています。
東京で言えば代官山みたいな感じでしょうか。
めったに帰らないので土地勘がなくなっている。
夕食の後で落ちついて飲めるバーを探したのですが、時間もないので見つからない。
これはもちろん昼間。感じよさそうです。 |
でも開いてなかった。
バーの名前はSOLO |
3日目の夜、店の前に手書きのメニューを書いた黒板が出してありました。
ガラス張りの店内をのぞくと真っ暗。
「いや、メニューが出してあるのに閉まっているはずがない」と言い聞かせながら、おそるおそるドアノブに手をかけると開きました。
暗がりから「いらっしゃいませ」の声。
あんなに暗いバーは初めてです。
若いバーテンダー1人でやっている。
薄暗がりの中で、アイラ島のシングルモルト・ウィスキー「ブルイック・ラディー」の珍しいのをダブルでいただきました。おいしかった。
感じの良いバー。
でもなんであんなに暗いんだ!?
帰京後、妻の友人から高級なウィスキーを何本かいただきました。
20年ほど前に亡くなったお父様が遺したものです。
木箱から現れたOld St. Andrews |
そのうちの一本がオールド・セント・アンドリューズOld St. Andrews 21年物。ですから、少なくとも40年以上前に作られたものです。ごたいそうに木箱に入っています。ラベルはボロボロ。
これは「さざ波」のぐい呑み。 お酒を入れると複雑な色合いに 輝く。 |
「さざ波」のグラス |
こんなにおいしいブレンデッド・ウィスキーは飲んだことがありません。
これから先飲めるかどうかもわかりません。
50年近い歳月が、馥郁たる香りと、何の角もない、でも深ーーい味わいに結晶していました。
いっしょに貰ったニッカの「竹鶴」、これも32年前のものです。
決して悪いウィスキーではありません。しかしこいつの前では水みたいに感じられます。
オールド・セント・アンドリューズの色は、田村隆一の「この金色の不定型な液体」どころではない。
琥珀色です。もっと濃いか。
とても贅沢な寝酒になりました。