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2015年12月9日水曜日

Tamen, te amo!——『相棒』Season 14「最終回の奇跡」

(ネタバレあり。注意!)

「ファンタスマゴリ」でどうなることかと危ぶまれた『相棒』Season 14 ですが、
「はつ恋」「キモノ綺譚」そして今回の「最終回の奇跡」と、
ストーリーの精度が上がってきた気がします。


人気漫画の最終回直前に転落事故で腕を痛めて以来、
作品を書いていなかった天才漫画家、箱崎咲良(はこざきさら)がなんと最終回を書いた。
そのラストの場面が殺人事件の予言になっている。

はたして本当に予言なのか?

そういう大枠の中でストーリーは進む。


実は3年前、転落事故にあったとき箱崎咲良は最終回を書き終えて原稿を持っていた。

彼女に衝突して転落させた男がその原稿を持ち去り、
その筋書きのとおりに、箱崎咲良を食い物にする人物を殺害する。
箱崎咲良への贖罪の殺人なわけです。

箱崎咲良は今回書き直した最終回にある小さな修正を加えます。

「神は細部に宿る」

意欲的な文化史研究をなしとげたヴァールブルク研究所の標語にもなったことばですが、
箱崎咲良の小さな修正は、まさに「神は細部に宿る」ような重要な意味を持っています。

右京はその意味にたどりつく(とわたしは思いました。はっきりとは表現されてませんでしたが)。


修正の意味を解く鍵となることばが、
最終回の死の場面に残されたカードの
「Tamen, te amo(タメン・テー・アモー)」。
「それでもわたしはあなたを愛する」という意味のラテン語です。

かつて自分を階段から転落させて漫画を書けなくさせた犯人に対する箱崎咲良の
「それでもわたしはあなたに感謝します」ということば。

それが書き直された最終回の「Tamen, te amo」に込められた意味かと思います。

でもこのことばはそれだけで終わっていない気がする。


事故で漫画を書けなくなった箱崎咲良。
車椅子に乗った彼女に、
わたしは「ヘルタースケルター」の映画化のイベントに車椅子姿であらわれた原作者
岡崎京子の姿を重ね合わせざるをえませんでした。

おそらく今日の物語は、
事故で描けなくなった漫画家、岡崎京子へのオマージュでもあると思います。

「箱崎」と「岡崎」の名前の類似もそのあらわれでしょう。

結末で、箱崎咲良は車椅子から立ち上がり、不自由な腕で創作を再開しはじめます。
岡崎京子よ、あなたにも箱崎咲良のように車椅子から立ち上がってふたたび漫画を描ける日が来ますように。
「Tamen, te amo」には、描けなくなった岡崎京子への
「Tamen, te amo(それでもあなたを愛しています)」のそういう思いも込められているのにちがいありません。

漫画の原稿の絵のレベルの高さもさることながら、「神は細部に宿る」「Tamen, te amo」のことばの多重性に、脚本家のなみなみならぬ思いがあらわれていました。


唯一の疵(きず)があるとすればタイトルでしょうか。

「最終回の奇跡」は、脚本のなみなみ思いを表現しきれていない気がする。
「Tamen, te amo(それでも君を愛す)」だともっと良かったのに。

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