このブログを検索

2014年12月17日水曜日

ドラマの心意気——『相棒』Season13「サイドストーリー」

今日の『相棒』「サイドストーリー」はシーズン13で出色の出来でした。

右京は、介護ノートに記された2種類のレシピで肉じゃがを作って、事件の核心に近づいていく。
タイトルどおり、
被害者にストーカー行為を働いていた元夫、
被害者の愛人とされていた男、
被害者の親が警察にかけた匿名通報など、
いくつもの「サイドストーリー」が、ジグソーパズルの最後の一片で絵が完成するように融合する。

ドラマの構成が緻密。
右京と甲斐君のエプロン姿というマニアをくすぐるお遊びもあります。


でもそれだけじゃなくて。
脚本家をはじめとするスタッフの心意気が感じられる一篇。

脚本は医療・介護総合確保推進法に象徴される安倍内閣の介護への動きを意識して書かれたものだと思う。

声高な主張はせず、緻密な推理ドラマに徹しているからこそ、

かえってスタッフの心意気を感じます。

テレビドラマはもちろんエンターテインメントとして優れていなければならない。

けれど一方で、
多くの視聴者を抱えるテレビドラマには
「国民の文化」みたいなものを形成する責任も歴然としてあります。

もちろん「国民の文化」が何なのかは一律ではない。
しかし、
「今主流となっている動きへの批判的視線」が

健全な「国民の文化」形成にはかならず必要だと思います。
批判と批判に耐える精神を欠いた国民文化は脆弱です。

ドラマはフィクションであるからこそ

かえって声高な主張より強い「批判的視線」でありうる。
ドラマがこぞってそうなる必要はないし、そうなってしまうとこれはこれで息が詰まる。
けれども
そういうドラマがどこかに存在していることは必要です。

『相棒』はそういう「今主流となっている動きへの批判」の心意気をときどき見せる。
今日の「サイドストーリー」はその系列の良質な作品だと思いました。


仲間由紀恵主演の『トリック』を思い起こしました。
おもしろおかしいドタバタ推理ドラマなんだけど、
『トリック』はオウム真理教事件への真摯な反応でした。
エンターテインメントとしての完成と社会への問題提起の融合。
そういう心意気が共通しています。
テレ朝がんばれ。


2014年11月28日金曜日

P.D.ジェイムズ追悼

P.D.ジェイムズが亡くなった。享年94。
ダルグリッシュ警視が活躍するすぐれた推理小説の作家でした。

拳銃ドンパチのアクションはほとんどない。

でも複雑な人間の心理をいかにもイギリス人らしいちょっと皮肉な視点で描いてみせる。
読み終わったあとで人間の見方がちょっと深まった気がする、
そんな余韻を残す作品群でした。

イギリスでは「ミステリーの女王」と呼ばれたくらい人気のある作家ですが

日本ではそれほど人気がない。
さっきAmazonを覗いたら手に入る作品はとても少ない。

この責任の大半は日本語訳にあると思います。


上に書いたように、

複雑な人間心理を皮肉な視点から描くP.D.ジェイムズの英語はやさしくない。
でも読み解けるとうなってしまうほど味がある。
P.D.ジェイムズを読むことには昔懐かしい「英文解釈」の楽しさとスリルがあるのです。
わたしは学生の英語力を試すときにはP.D.ジェイムズを読ませることにしています。

邦訳すべてに目を通したわけではありませんが、

中期頃までの代表作のほとんどの訳は、その味がある文を伝えていない。
というか誤訳が多すぎる。

わたしがP.D.ジェイムズを熱心に読んでいたのはずいぶん前ですが、

日本語訳のあまりのひどさに腹が立って「P.D.ジェイムズ誤訳集」を書きためたくらいです。

二年ほど前の投稿「レジナルド・ヒル追悼」にも
P.D.ジェイムズの邦訳に触れ、『罪なき血』の改訳が出ているけどまだ読んでない、
と書きました。

暇がなくて改訳読んでません。

が、Amazonをざっと見た限りの話ですが『罪なき血』以降、改訳は進んでない様子です。

残念でなりません。

もっと読まれていい作家なのに。

退職したらたっぷり時間をかけて 

もう一度P.D.ジェイムズを読みたいと思っています。

2014年11月16日日曜日

ミネルウァの梟は黄昏に飛び立つ

サッポロビールが輸入しているフランスはラングドック地方の赤ワイン
「ラ・キュヴェ・ミティーク 2012」(La Cuvée Mythique 2012)。
イトーヨーカ堂とかによく置いてあります。

クイズ。

これを思わず買ってしまうのはどんな人でしょう?

答え。

西洋古典学をやってる人間。



えーーーっとですね、
西洋古典学というのは、古代ギリシア・ローマの文学・哲学・歴史・美術史・考古学を総称する学問分野、英語では classics と言います。(日本にも「日本西洋古典学会」があって活発に活動しています)

そう、日本では古事記や枕草子などの「古典」と区別するために「西洋」をくっつけているのですが、欧米では単に「古典学」classics と言います。「古典」と言えば古代ギリシア・ローマのものを指すのです。西洋ではシェークスピアもダンテも「古典」ではありません。ギリシアやローマの古典を継承する新参者の扱いです。知ってた?



さて。
古代ギリシア語やラテン語のテキストを読んでいる西洋古典学者たちは、
なぜラ・キュヴェ・ミティークをふらふらと買ってしまうのか?


ラベルの梟なんですね。



フランスに「 ビュデ叢書」というものがあります。
「ビュデ叢書」のアリストパネス喜劇
『アカルナイの人々』のギリシア語原典と
フランス語訳、そしてミネルウァの梟
古代ギリシア・ローマのテキストが右ページに、
そのフランス語訳が左ページに印刷してある対訳です。

その「ビュデ叢書」の表紙が
アテナ女神の聖なる鳥とされている梟。
ワインのラベルと同じデザインなのです。

西洋古典学をやっている人間ならビュデ叢書にお世話になっている。
だからこのワインを見るとつい買ってしまう(のではないかと想像します)。



シラーその他数種類の葡萄のブレンド。
配合のバランスはなかなかで、香りにもそのバランスの良さが出てます。
安ワインなのでしっかりボディーを期待してはいけません。

ギリシア土産のスパイスと
ボデガス・ブレカ・ブレカ



昨日はラムチョップにギリシア土産のラム用ハーブをたっぷりかけてグリルしたので、
それに負けないどっしりボディーのスペインワイン「ボデガス・ブレカ・ブレカ」を開けました。高級ワインじゃないけど迫力満点。
その直後なので、梟君の味は影が薄くなってしまう。

でも悪くない赤です。
ビーフやラムには負けてしまうから、
牡蠣フライとか七面鳥とかピッツァには合うかもしれない。



アテナ女神はローマ神話ではミネルウァ。
綴りは Minerva で、ラテン語では「ミネルヴァ」ではなく「ミネルウァ」です。
かの大哲学者ヘーゲルは『法哲学』の最後の方に
「ミネルウァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ」と書いています。
女神アテナ(ミネルウァ)は知恵の女神ですからその梟は哲学。

過去をふり返ったときに生まれ出る省察が哲学である、
というのがわたしの理解なのですが、ヘーゲル学者さん、ちがっていたらご教示願います。

ラ・キュヴェ・ミティークを飲みながらヘーゲルの『法哲学』を読むのはしんどいな。

でも。


これを飲みながら
ホメロス『オデュッセイア』(松平千秋訳、岩波文庫上下2巻)
を読んでみてはいかがでしょう。

人間を豚に変身させるキュートな魔女キルケー、
一つ目巨人キュクロープスの洞窟から脱出するオデュッセウスの機知。
そしてテーレマコスに助言するメントールなる人物に変身してあらわれるアテナ女神!
(「師」に当たる英語メンター mentor の語源はこのメントールです)

やがてグラスの中のラ・キュヴェ・ミティークが、
ホメロスの「葡萄酒色の海」に見えてくるはずです。















2014年11月15日土曜日

追悼 徳大寺有恒

ちょっと遅ればせながら
徳大寺有恒氏を追悼します。

「間違いだらけの自動車選び」で知られた自動車評論の重鎮であったことは今さら言うまでもない。

でもわたしにとって徳大寺有恒さんは特別の存在でした。


ひとつはヨーロッパ車の魅力を教えてくれたこと。
「数値化されない自動車の質」
というものが存在していて、数値化される優秀さを誇る日本車にはおよびもつかない別種の質の高さをヨーロッパ車は持っている。
それを徳大寺有恒は教えてくれた。
徳大寺有恒さんがいちばん好きなイギリス車ではないけれど、
わたしは徳大寺有恒さんに導かれるようにしてルノー・メガーヌを買い、
それまで乗っていた日本車とは異次元の「数値化されない自動車の質」を思い知らされて以来ずっとルノー車に乗っています。おそらく運転できなくなるまでルノーに乗り続けると思います。



もうひとつは、西洋文化の研究者としてわたしは徳大寺有恒さんにたくさんのことを学びました。

たぶん徳大寺有恒は成城大学時代たいして勉強してなかったんだと思う。
都会の車好きの遊び人のボンボン。
それがわたしの徳大寺有恒像です。

でも徳大寺有恒さんは
「遊び人侮るべからず」
を具現した人だと思う。

好きな車に夢中になって生きる、そのことを通じて徳大寺有恒さんは、
いろんな魅力的な車を生み出したヨーロッパ文化の本質に触れていったのだと思います。
彼の自動車評論は、車を通じたヨーロッパ文化論、そしてそれと比較した日本文化論の度合いを深めていきました。

アングロサクソン、ゲルマン、ラテンという西ヨーロッパ文化内部の違いを徳大寺有恒さんほど的確につかんでいる人はあまりいないのではないかと思う。

わたしは文化史を通じてその違いを考えていたし、今も考えているんだけど、
徳大寺有恒さんが車を通じて言っていたことの正しさを痛感することが多い。

たとえばフェラーリについて、徳大寺有恒さんは
「日本のメーカーはほんとうのスポーツカーを作ることはできない。フェラーリにはスポーツカーが本質的に持っている死への衝動や退廃がある。それを日本のメーカーはわからない」というようなことを言ってます。
イタリア上流階級の本質を突いていると思う。
だけじゃなくフィアットに見られるイタリア民衆の感性も同時に見抜いていた。

それからなんといっても得体の知れないイギリス文化への洞察。
イタリアとかフランスとかのおしゃれさがまるでなくて、
「趣味がいいんだか悪いんだかわからない」謎がイギリス文化にはあって、
それを時間をかけて眺めているうちにイギリス文化の奥深さがわかってくるんだ、
みたいなことを言ってます。

ああそうだ、とわたしは腑に落ちました。
車だけの話じゃない、イギリスのファッションや家具の本質はそれだと思います。

そういう深い理解を、文化史のテクストを読むんじゃなくて、
車やファッションという自分が大好きな物を通じて獲得している。

学問に縁がなくたって遊びをきわめると文化の本質に到達する。
ときには学問より深い理解に到達する。 

「遊び人あなどるべからず」と書いたのはそういう意味です。

好きなことで遊び続けて、深い異文化理解に自然にたどり着いた。
それも楽しそうに。

心から徳大寺有恒さんのご冥福をお祈りします。







2014年11月14日金曜日

背脂と青菜のチャーハン

背脂のお話

中華料理屋のチャーハンはなぜおいしいのか?
火力が強い、腕がいい、とかの理由はもちろんあると思いますが、
家庭で作るチャーハンとの決定的な違いは油だと思います。
ラードもしくは背脂を使うからコクが出る。


動物性の脂が体に悪いという話をそれほど信用してません。
年寄りだから 食物に関するさまざまな説が時代ごとに変わる、というかひっくり返るのを
幾度も見聞きしてきました。

焦げが癌の元になるだとか。
バターは体に悪いからマーガリンを使った方がいいとか。

今そんなことは言われない。
むしろ最近ではマーガリンやそれに使われている植物性油の方が害が大きいと言われてます。

ほんとかどうか知りません。
大事なのは、食物に関してわたしたち人間はほんとうのことをたいして知っちゃいないという事だと思います。

現在流布している説が否定される可能性は大きいし、それが食物学や栄養学の進歩のしるしでもあるのですから、「毒素が含まれていることがわかった」とかでないかぎり、あまり気にせず好きなものをバランス良く食べるのがいちばんだと思います。


で、豚の背脂ですが。
おいしい。そして安い。

中華で魚一匹を蒸すときに背脂をひとかけら乗っけると俄然コクが出る。
チャーハンも香り高くパラリと仕上がります。
意外でしょうがサラダ油で作るより油っこくありません

良い肉屋で背脂を切ってもらって冷凍しておきます。
(店頭にはふつう出てないと思いますが、頼むと切ってくれます)
包丁がようやく通るくらいの解凍状態で、使う分を切り取ったら残りをまた冷凍する。
というやり方をしてますから1度に買うのは200gくらいにして、質が劣化しないように気をつけてます。信じられないくらい安いものです (100g20~30円くらい)。


「背脂と青菜のチャーハン」としましたが、
豚肉や卵や干しエビも使います。
でも背脂と青菜のコンビネーションがこのチャーハンの肝。
青菜はなんでもいいのですが、青くさい大根葉が最高だと思います。

卵と冷やご飯を炒める前に混ぜておくというやり方もありますが、
卵の舌触りが好みではないのでわたしはやりません。



背脂と青菜のチャーハン(わかめスープ添え)の作り方


《材料》(3人分)
米           1合半
豚の背脂        70gくらい
豚ロース肉(またはショルダーベーコン)      
            30~40g(実は計ってません。薄切り2~3枚)
干しエビ        大さじ 1.5(ぬるま湯で5分ほど戻しておく)
ネギ          1/3本
大根葉         適量(わたしはけっこう多めにする)
(ブロッコリー     適量 冷蔵庫に残っていたから使っただけです。なくて可)
卵           3個

干しわかめ       適量(水で戻しておく)
鶏ガラスープ      大さじ1杯
塩           適量
胡椒          適量
醤油          少々
紹興酒         大さじ2
日本酒         大さじ2
オイスターソース    大さじ2
ゴマ油         少々



【下準備

1) 米を炊く。冷やご飯の場合、ボールに入れて手でもみほぐしておく(冷蔵庫に2~3日入っていて乾き気味のやつがうまくほぐれておいしい。手でやるのがいちばん能率的)。

2) 豚肉は細かく切って紹興酒、塩、胡椒で軽く揉んでおく。ショルダーベーコンを使う場合は切るだけ(ハムよりショルダーベーコンの方がお勧め)。

3) 大根葉、(ブロッコリー)、ネギを刻む。ワカメスープ用にネギをひとつかみ別にしておく。わたしは白ネギの葉の部分が好きなのでけっこうたくさん使います。半解凍状態の背脂を細かく刻む。

4) 戻しておいたワカメを適当に切る。干しエビも刻んで、戻し汁はワカメスープの鍋に入れる。

5) 卵を溶く

【ワカメスープを作る】
3杯分の湯を鍋に沸かし、ガラスープの素、塩、日本酒で 味つけ、醤油をほんのわずか垂らす。薄めに味をつけることが大事です。ゴマ油を垂らす。

【炒める】
1) 材料すべてを手元に整理し、調味料の蓋はあけておく。中華は時間勝負です。途中で冷蔵庫から調味料を取り出すなんていういとまはありません。

この写真の背脂は少なめかな
2) 熱した中華鍋に刻んだ背脂を入れ、中火で背脂の脂を引き出す。背脂が狐色に縮んだらOK。


3) 強火にして油に塩を入れ、豚肉(またはショルダーベーコン)を炒める。

火が通ったら干しエビを入れ、溶き卵を流し入れる。


4) お玉で卵をそーーっと何回か混ぜたくらいでご飯を入れ (卵をガシャガシャ混ぜたらフワフワじゃなくなります)、鍋をあおって手早く卵とご飯を混ぜる。

5) 特に冷やご飯を使う場合、お玉でやさしく鍋肌に押しつけるようにするとほぐれてパラパラになりやすい。「あおる」「鍋肌に押しつける」を交互にやりながら、胡椒と塩で味を調整します。あおるのができない人は「お玉で混ぜる」でもだいじょうぶ。


6) ご飯が十分に熱されてから青菜を入れるのが重要ポイント
その前に入れると火の通りが遅く、野菜の水分でベチョベチョになってしまいます。熱いご飯に入れると野菜の蒸気がご飯をいっそうパラパラにしてくれます。この辺で隣のコンロのワカメスープにふたたび火を入れはじめます。あとは野菜に火が通るまであおる(または混ぜる)。



7) オイスターソースをかけ回したらすぐに火を止め、何度かあおる(オイスターソースはあまり強火を当てない方がよい)。

8) 隣でワカメスープが沸騰しているはずだから、ネギとワカメを入れてひと混ぜし、火を止める。

9) 大きめの茶碗にチャーハンを詰めて皿に移す。ワカメスープを添えて完成。




2014年11月3日月曜日

タコの溺れ煮パスタ

マラドーナと間違えられた男


タコのトマトソースパスタですが、本場ナポリでは「タコの溺れ煮」と呼ぶそうです。

大学の後輩からこの料理を教えてもらいました。
イタリア料理は地方ごとにずいぶん異なります。
それを知らなかった後輩はナポリに行ったとき、イカ墨のパスタを注文した。
そしたら店員は
「それはヴェネチアのパスタだ。ナポリにそんなものはない。『タコの溺れ煮』にしなさい」。

それはそれはおいしいパスタだったそうです。

余談ですが、タコの溺れ煮を食べていると、
隣のテーブルの団体が後輩を見てひそひそ話をしている。
やがてウェイターがやって来て
「ひょっとしてあなたはマラドーナか?」

後輩が「シ(そうだ)」と答えると隣のテーブルがどよめいた。
本人かどうかみんなで賭をしてたらしい。

後輩はもちろん
「今のは冗談である。日本人だ」
と訂正したそうですが。
体格も風貌もそれくらいマラドーナに似た後輩でした。

閑話休題(あだしごとはさておき)。

ナポリではフレッシュトマトでタコを柔らかくなるまで数時間煮込むそうです。
和食では海鮮ものは「素材を活かすため」できるだけ短時間でつくります。
イタリアンは発想が違う。
海産物のうま味をソースに移す。和食とは違う「素材の活かし方」だと思います。

タコのうま味がしみ出たコクのあるフレッシュトマトのソースが肝ですが、
夏じゃないのでおいしい完熟トマトが手に入りません。
今回は邪道ですが、水煮トマトと、コクを出すために塩漬けグリーンオリーブを足しました。夏なら使わないでフレッシュトマトだけで作るのが本道です。

裏返して底からも叩きます
わたしの工夫その1は、タコのたたき方。
ギリシアなんかではタコを岸壁にバンバンたたきつけてフワフワに柔らかくします。
漁師町に住んでいないかぎりそんな真似はできないので、
半解凍状態の茹でだこをパックのまま麺棒でたたきます
布巾で包んでやるより手間がかかりません。
煮込む時間も短縮できます。

工夫その2は、ナンプラーでコクを出すこと。
これはたぶん邪道じゃない。
ナポリ近郊にはローマ時代以来のフィッシュソース「ガルム」を使う地域がありますから。


タコの溺れ煮パスタの作り方



材料(3人分)
パスタ          300g(ゆで時間5~6分のもの)

ゆで蛸(または蒸し蛸)  400gくらい
タマネギ         1/2個
セロリの葉と茎      1/3本分くらい
トマト水煮缶       1缶
トマト          2個
乾燥トマト        2枚
パセリ          適量
ニンニク         1片
塩漬けグリーンオリーブ  5~6個(トマトが完熟でおいしければ使わない)

白ワイン(または純米酒)   大さじ3
EVオリーブオイル 

黒胡椒
ナンプラー          大さじ1



【材料の下準備】
(1) ゆで蛸は冷凍しておいて、「もうちょっとで解凍かな?」というくらいまで解凍する。

(2) タマネギ、セロリ、パセリはみじん切り。(わたしはイタリア料理に欠かせないセロリは刻んで冷凍しておきます)

(3) ニンニクもみじん切り。(わたしは皮つきのまま包丁の腹で潰してから皮をむき、みじん切りにします。この方がめんどくさくないし香りが良く出る)

(4) 塩漬けグリーンオリーブを使う場合は適当に輪切りにする。


【ソースを作る】
(1) 解凍しかけのゆで蛸をパックのまま麺棒でバンバン叩いたあとで、ぶつ切りにする。


最初はこれくらい
水分があります
(2) フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れ、中弱火でニンニクの香りをオイルに移す。

(3) タマネギとセロリを入れてタマネギが半透明になるまで炒める。タコと白ワイン(または純米酒)を加え、アルコール分が飛んでから、トマト缶とトマトを加える。乾燥トマトは調理バサミで切って加える。

(4) 塩とナンプラー、胡椒で味をつけながら煮込む。グリーンオリーブを使う場合もこのとき入れる。



これくらいまで水分を飛ばす
30分は煮込んだ方がいいと思います。
煮込んで水分が飛ぶのを考慮に入れて塩加減をするようにしてください。

頃を見計らってパスタの湯を塩をしっかり入れて沸かしはじめる。




【仕上げ】
パスタを指定時間より1分30秒短く茹でる。パスタがゆで上がる直前にソースにゆで汁お玉1杯分とパセリを入れ、ざっと混ぜる。
パスタがゆで上がったら湯切りしてソースの中に入れ激しくあおる。またはトングで激しくかき混ぜる。ソースを短時間でしっかりパスタに食い込ませるためです。火は強火。

お皿に盛ったら完成。
好みで上質のEVオリーブオイルをかけ回して食べる。



2014年10月3日金曜日

『悪童日記』

『悪童日記』が映画化されました。 

堀茂樹訳
ハヤカワ文庫
ハンガリー出身のアゴタ・クリストフのベストセラー小説で、すぐさま各国語に翻訳され、日本でも2001年に邦訳が出てかなり評判になりました。 

政治と経済が混乱を極めるハンガリーの地獄絵図を、冷徹な知恵を使って生きのびる少年たちの物語です。 

手に汗握るエンターテインメントを期待したら裏切られます。 
「生きのびる」ことだけを迫られた孤立無援の主人公たちがごくあたりまえのように嘘・策略を用いて行動していく、その肝の太さの前には、情緒だとか優しさだとかはかすみのように意味をなくしてしまう。ものすごい「悪童」ぶりです。 

『プチ・ニコラ』みたいな、大人の手のひらの中での「お茶目な」悪童ではない(『プチ・ニコラ』大好きなんだが)。
生き方として「悪童」であることを選ばざるを得なかった、冷たい悪童ぶりです。

いっさいの虚飾をはぎとられたときにあらわれてくる「生きる」ということのすさまじさが、少年の「日記」という素朴な文体によっていっそう生々しく伝わってきます。 

「倫理」や「正義」を語るなら、この小説を読んでからにしてくれ、 
と言いたくなるくらいの衝撃があります。 

多くの映画監督が映画化に挑戦したらしいがみんな挫折したらしい。 
さもありなん。 

今回公開される映画はアゴタ・クリストフの世界をみごとに映画化したとの評判。 
わくわくします。 



ところで原作はフランス語です。 
地獄を生き抜く10代の少年の日記という形をとっていますから、文体は洗練とはほど遠く荒々しい。翻訳でもそれは伝わります。 

わたしは2001年に(3番目の)姉から教えられて邦訳でこの小説を読みました。 


おもしろかったのは、 
姉は大学でフランス文学をやっていたので、卒業後も主婦業のかたわら、フランス語教室に通っていて、 
そこのフランス人の先生に 
「アゴタ・クリストフの『悪童日記』はものすごい。先生はどう思うか?」 
と質問したところ、 
「アゴラ・クリストフ? それは誰だ。わたしは知らない」 
と答えたそうです。 

姉曰く、 
「あんなベストセラーを知らないはずはない。ハンガリー人の荒削りな文体で書かれた作品をフランスのエリートは絶対に認めたくないから知らないふりをしたんだ」と。 

当たっているとわたしは思います。 



移民や亡命者を受け入れてきた歴史がある一方で、 
フランスの知識人には「フランスは世界の思想の最先端だ」という中華思想があります。 
その「最先端の思想」は「洗練された美しいフランス語」で書かれなければならない。 
そこがアメリカなんかとまったく違う点です。 

ヴォルテール、ベルグソン、レヴィ=ストロース、リクール、J.-P.ヴェルナン、フーコー、 
(そして異論はあるかもしれませんがデリダも)
みなみごとな文体です。 

外国から移住してきた知識人(当然全員めちゃめちゃに頭が切れる人たちです)は、 
必死になって「みごとな」フランス語で書こうとする。 
そうじゃないと認められないからです。 

ブルガリア出身のすぐれた記号論者ジュリア・クリステヴァなんか読んでると、 
言ってることはおもしろいと思うのですが、文体に「移住者の悲哀」を感じます。 
もう、一生懸命、こむずかしく、複雑な文体を駆使しようとしている。 

フランス文学をやってる優秀な友人は 
「要するにクリステヴァは田舎者の文体なんですよ。必死に背伸びをしている」 
と評していました。 


アゴタ・クリストフはジュリア・クリステヴァが考えもしなかったやり方をしました。 
「みごとなフランス語」なんかに目もくれない。 

「田舎者でどこが悪い。パリの洒落者にわたしみたいな世界が書けるのか」 
と洗練されてないフランス語で書いた。 
そして大ベストセラーになった。 

痛快です。 

フランスの知識人(の一部)にとって苦々しい作家だと言えます。 

『悪童日記』すごいですよ。 


小説読んでから映画見るといいかも。 

2014年9月23日火曜日

ローズマリー風味のかぼちゃパスタ

ときどき行く吉祥寺の「Va Bene(ヴァ・ベーネ)パスタランチでこれを食べました。
手書きのメニューに「かぼちゃのパスタ」とあったのでクリームソースを想像しました。
しかし塩味ソースで、しかもローズマリーを合わせているのが意表を突きます。

「かぼちゃとローズマリーって意外に合うんですね」
と大将に言うとうれしそうに笑って
「おいしいでしょ。わたしはずっと前からやってます」



近所に住んでいる姉からかぼちゃをもらったので作ってみました。
パンチェッタ(塩豚)がのぞましいのですが、なければベーコン。
(もう何度か書きましたが実はベーコンはパンチェッタの代用にはなりません。
ベーコンの燻製香がソースの邪魔をします)




ローズマリー風味のかぼちゃパスタの作り方



材料(3人分)
パスタ          300g(ゆで時間5~6分のもの)

かぼちゃ         1/4個(と言ってもかぼちゃの大きさ次第。量はお好みで)
パンチェッタ(塩豚)   120g
タマネギ         1/2個
青菜(チンゲンサイなど) 適量(今日は2株。もっと少ない方がいいかも)
ローズマリー       1/2枝
ニンニク         1片

白ワイン(または純米酒)   大さじ3
EVオリーブオイル 

黒胡椒
(ナンプラー)        ごく少量。なくても可。



【材料の下準備】
(1) パスタをゆでる鍋にたっぷりの湯を沸かしはじめる。塩をしっかり入れる。

(3) パンチェッタ、タマネギ、ニンニクはみじん切り。青菜は適当に切るが茎の部分と葉の部分を分けておく。

(4) かぼちゃはやや小さく切る。言わずもがなですが、
かぼちゃを切るとき怪我をしないように
ちなみにわたしはかぼちゃを切るときはでっかい中華包丁を使います。力を入れずにバンバン切れるのでこわくない。こういうとき中華包丁のすごさがわかります。

切ったかぼちゃを水洗いして器に入れ(水分を足すため)、ラップをかけて電子レンジにかける。熱くなるけど柔らくなってないくらいが目安。


【ソースを作る】
(1) フライパンにオリーブオイルを入れ、中火でパンチェッタを炒める。パンチェッタの成分が油に染み出したかな、と思った当たりでニンニクを加える。

パスタ料理全般にそうですが、ニンニクを焦がすのは厳禁。ソースの香りが台無しになります。

ニンニクに火が通ったらタマネギを入れ、塩胡椒を振る。
たぶんこのあたりでパスタを茹ではじめるとタイミングがちょうどいいんじゃないかと思います。指定時間より1分ちょっと短めに茹でる。茹で上がりとソースのできあがりが同時になるのをめざします。


多めのゆで汁で
かぼちゃを柔らかくします
(3) タマネギが半透明になったら、白ワイン(または純米酒)を加え、アルコール分が飛んでから、
かぼちゃ、枝からしごいたローズマリーの葉、パスタのゆで汁お玉2杯強を加えます。

ゆで汁がこのパスタの肝。ふつうの塩味系パスタより多めです。かぼちゃが水分を吸うのでゆで汁が少ないとトロトロのソースになりません。


手早く味を調整。塩気が足りない場合にナンプラーを少量加えるとコクがでます。
パスタのゆで上がりが近いので青菜の茎の部分を入れ、パスタのゆで上がり直前に葉の部分をソースパンの上からまくように散らします(混ぜなくていい)。


【仕上げ】
塩味系パスタの「鉄の掟」 (?) ですが、パスタがゆで上がったらしっかり湯切りしてソースの中に入れ激しくあおる。またはトングで激しくかき混ぜる。ソースを乳化させると同時に短時間でしっかりパスタに食い込ませるためです。火は強火。


うーーん、いつものことだが
盛りつけがヘタ。

お皿に盛ったら完成。
好みで上質のEVオリーブオイルをかけ回して食べる。